一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます

星空の下で

 結婚してから、しばらく経ったある休日。
 私は今、山の中にいた。
「彩乃、もう少しや!」
「もう……少しって、どのくらい……?」
 息を切らしながら尋ねると、前を歩くたっちゃんが振り返る。
「そらもう、ちょっとや。ほら、頑張り」
 その後ろには、たっちゃんと一緒に山を登ってきた五人の山仲間がいる。
 みんな優しく声をかけてくれるけれど、私にはそれどころじゃない。
 なにしろ、これが人生で初めての山登りなのだ。
「たっちゃん……私、初心者だよ?」
「知っとる」
「なのに、なんでこんなところに……」
「湊の嫁さんになったんやから、山の一つや二つくらい登れんとな」
「そんな理屈ある?」
 思わず恨めしそうに睨むと、たっちゃんは豪快に笑った。
「あるある。俺の中ではな」
「……絶対、ないと思う」
 それでも、なんとか足を動かす。
 途中で何度も休憩しながら、それでも最後まで登りきった。
「彩乃、よく頑張ったね」
「本当に初めて?」
「思ったより全然歩けてたよ」
 山仲間たちに口々に褒められて、少しだけ誇らしい気持ちになる。
「……ありがとう」
 そして――。
 山頂から見える景色を目にした瞬間、疲れなんて吹き飛んだ。
「……すごい」
 思わず呟く。
 遠くまで広がる景色。
 澄んだ空気。
 頬を撫でる風。
「な?」
 隣で、たっちゃんが満足そうに笑う。
「登ってきてよかったやろ?」
「うん」
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