一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 けれど今日は違う。
 向かい側には湊さんがいて、同じ料理を食べている。
 それだけのことなのに、なんとなく落ち着かない。
 私はスプーンを手にしながら、ちらりと湊さんを見る。
 湊さんは特に気にする様子もなく、カレーを口に運んでいた。
 美味しいと思ってくれているのかな。
 そんなことを考えてしまう。
 けれど、わざわざ聞くのも恥ずかしくて、私は黙って自分のカレーを食べた。
 特別な料理ではない。
 ただのカレーだ。
 それでも、こうして二人で食卓を囲んでいると、不思議な感じがした。
 今朝まで、私は自分の部屋で一人で暮らしていた。
 それが今は、知らない家で、期間限定とはいえ、誰かと一緒に夕飯を食べている。
 ほんの数日前の私なら、こんな状況になるなんて想像もしていなかっただろう。
 そう考えると、なんだか現実感がなくなる。
 私は小さく息を吐きながら、もう一口カレーを口に運んだ。
 やがて、二人とも食事を終えた。
 私は食器を片づけようと立ち上がりかけた。
 すると――。
「俺が洗うよ」
「え、でも……」
 湊さんが食器を手に取る。
「作ってくれたでしょ」
 そう言ってキッチンへ向かう。
 その背中を、私は思わず目で追った。
 作ってくれたから洗う。
 そんなに難しいことではないのかもしれない。
 でも、私は少し意外だった。
 もっと何でも人に任せるような人なのかと思っていた。
 大きな家に住んでいて、仕事も忙しくて。
 そういう人だから、家のことは誰かに任せているものだと、勝手に思っていたのだ。
 けれど、湊さんは違った。
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