一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
「え? でも私のこと全然知らないんじゃ」
 思わず言い返した。
 実際、その通りだと思う。
 私だって湊さんのことをほとんど知らない。
 どんなものが好きなのか。
 普段はどんなふうに過ごしているのか。
 仕事以外では、どんな人なのか。
 考えてみれば、知らないことばかりだ。
「そうだよ。でもこうやって話せば、わかるでしょう?」
 そう言って、湊さんはプロフィールをテーブルに置いた。
 その言葉を聞いて、私は少しだけ黙った。
 確かに、そうかもしれない。
 紙に書かれた文字だけでは、その人のことなんて全部はわからない。
 好きなものや嫌いなものがわかったとしても、その人がどんなときに笑うのか、どんなことを考えるのかまでは書けない。
 それなら、こうして一緒にいる時間の中で、少しずつ知っていけばいい。
「で、でも一か月、一緒に暮らすんですよ」
 それでも私は言った。
 自分でも、少し食い下がっているのがわかる。
 一か月。
 短いようでいて、一緒に暮らすとなれば決して短くない。
 だからこそ、私はできるだけ失敗したくなかった。
「だから、こうやって話していけばいい」
 湊さんは穏やかに言った。
 押しつけるような言い方ではない。
 ただ、本当にそれでいいと思っているようだった。
 そう言われると、確かにその通りなのかもしれない。
「……そうですね」
 私は頷いた。
 なんだか少しだけ肩の力が抜けた。
 完璧に準備しなくてもいい。
 わからないことがあれば、その都度聞けばいい。
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