一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
そのことが、何より嬉しかった。
『水野さんに、どうしても真っ先にお礼を言いたくて』
「お礼だなんて。近藤様が頑張ったからですよ」
『でも…… 私、最初は本当にわがままでしたよね』
苦笑交じりの声に、私も思わず笑った。
「そんなこともありましたね」
『ありましたよね……。年収はいくら以上じゃなきゃ嫌とか、年齢は何歳までとか。お見合いしても、服装が好みじゃないとか、会話がつまらないとか……』
「そうでしたね」
 近藤さんの言葉を聞きながら、私はこれまでのことを思い返していた。
 条件に合わない人を紹介すれば、すぐに断られる。
 お見合いまで進んでも、気になるところが一つでもあれば、次はない。
 何度話をしても、なかなか考えを変えようとはしなかった。
 それでも、少しずつだった。
 自分が本当に求めているものは何なのか。
 結婚相手に何を望み、自分は相手に何を与えられるのか。
 一緒に考える時間を重ねるうちに、近藤さん自身が少しずつ変わっていった。
『それなのに、水野さん、嫌な顔ひとつせずにずっと付き合ってくれて』
「嫌な顔はしていたかもしれませんよ?」
『ふふっ。でも、私にちゃんと向き合ってくれました』
 少しの沈黙のあと、近藤さんの声が柔らかくなる。
『私、自分が何を求めているのか、全然わかってなかったんです』
「……」
『水野さんに何度も言われて、ようやく気づきました。私、相手にばかり求めていたんですよね』
「近藤様……」
『今の彼と出会えたのも、水野さんが私にちゃんと向き合ってくれたからです。本当にありがとうございました』
「こちらこそ、ありがとうございます」
 胸の奥がじんわりと温かくなる。
 こういう言葉をもらえると、思う。
 この仕事をしていて、本当によかった、と。
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