一か月だけの契約妻のはずが、恋愛経験ゼロの私を社長が溺愛してきます
 困っていることがあれば、いつの間にか気づいてくれる。
 そんな湊さんが、こんなふうに思いがけないことをしてくれるのが、なんだか新鮮だった。
 それに――。
 私が喜ぶかもしれないと思って、ここまで準備してくれたのだろうか。
 そう考えると、胸の奥がじんわりと温かくなる。
 テントの中をもう一度眺めてから、私は外へ出た。
「彩乃、バーベキューは食べられる?」
「もちろんです」
 考えるより先に答えていた。
 バーベキューなんて、久しぶりだ。
 しかも、こんなふうに家の庭で食べるなんて、考えたこともなかった。
 いつもの夕食とは違う。
 そう思うだけで、なんとなく気持ちが浮き立つ。
 私が即答したのが可笑しかったのか、湊さんが笑った。
「じゃあ、焼こうか」
 そう言うと、湊さんは慣れた手つきで準備を始めた。
 どうやら下準備はすべて終わっていたらしい。
 切り分けられた野菜も、味付けされた肉も、すぐに焼ける状態になっている。
 火を起こすのも、網を準備するのも湊さん。
 私は言われるままに椅子に座って、焼き上がるのを待つだけだった。
 何から何まで手際がいい。
 私はただ眺めているだけなのに、あっという間に炭に火が入り、網の上から香ばしい匂いが漂い始めた。
 じゅう、と肉が焼ける音がする。
 それだけで、さっきまでそれほど空腹を感じていなかったはずなのに、お腹が空いてくるから不思議だった。
「これ、食べて」
「ありがとうございます」
 差し出された肉を受け取る。
 まだ熱が残っていて、箸でつまんだ肉からは、食欲をそそる香りが立ち上っている。
 私は小さく息を吹きかけてから、口に運んだ。
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