氷の君に、恋の歌を。
クラスメイトたちが少しずつ帰っていく。
笑い声が遠ざかって、教室の中に静かな夕方が落ちてくる。

「乃愛」

低い声で名前を呼ばれて、乃愛はびくっと肩を揺らした。

「は、はい」

「こっち」

蓮斗は自分の席から立ち上がると、窓際のいちばん後ろの席へ歩いていく。
乃愛もどきどきしながら、そのあとを追った。

夕日が差しこむ教室の隅。
そこは昨日よりも静かで、もっとふたりきりに感じた。

「それで……お礼って?」

勇気を出して聞くと、蓮斗は少しだけ目を細める。

「そんなに気になるか」

「気になるよ……」

正直に答えると、蓮斗は乃愛の前に立ったまま、しばらくじっと見つめてきた。

その視線だけで、胸が苦しくなる。
甘くて、逃げたくなくて、でも恥ずかしい。

✨ お礼の抱きしめ

「昨日、ほんとに助かった」

蓮斗が静かに言う。

「乃愛がいてくれたから、ちゃんと休めた」

やさしい声だった。
いつもの少し意地悪な甘さじゃなくて、本気で伝えようとしてくれている声。

「だから、お礼」

そう言った次の瞬間、蓮斗の腕がそっと乃愛を包みこんだ。

「っ……」

やさしい。
でも、しっかり離さない抱きしめ方だった。

胸に顔が近づいて、蓮斗の体温が制服越しに伝わってくる。
心臓の音まで聞こえそうなくらい近いのに、不思議と怖くない。
むしろ、安心する。

「れ、蓮斗くん……」

小さく名前を呼ぶと、頭の上から低い声が落ちてきた。

「昨日、乃愛がこうやって支えてくれただろ」

たしかに昨日は、ふらついた蓮斗を必死で支えた。
でも今は逆だ。
今は乃愛のほうが、包まれて守られている。

「今日は、ちゃんと俺から返したい」

その言葉に、乃愛の胸がぎゅっと熱くなる。

「そんなの……ずるいよ」

「何が」

「うれしすぎる……」

正直にこぼすと、蓮斗の腕に少しだけ力がこもった。
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