ゆびきりげんまん
「颯真兄ちゃーんっ!」

聞き慣れた声がして振り向く。

十五年前と変わらない笑顔で、すずがこっちに走ってきた。

違うのは――。

「おっそーい!」

「走んな。転ぶぞ」

「子供ちゃうねんから転ばんわ」

「お前は転ぶ」

「転ばへん!」

言ったそばから、歩道の小さな段差につまずいた。

「わっ!」

「ほら」

咄嗟に腕を掴む。

「…………」

「…………」

「な?」

「……今のは、段差が悪い」

「段差に謝らせる気か」

「こんなとこにおる段差が悪いやん」

「段差は動かへん」

「もぉ! 久しぶりに会ったんやから、もっと優しくしてや!」

「三日前に会ったやろ」

「三日も会ってへん!」

「三日しか、や」

藤崎すず、二十歳。

五歳の頃から、ほとんど変わっていない。

もちろん、見た目は変わった。

背も伸びた。

髪も伸びた。

子供の頃みたいに、鼻水を垂らしながら俺の後ろをついてくることもない。

「颯真兄ちゃん、聞いてる?」

「聞いてる」

「ウソや。今すずのこと見てたやろ?」

「見てへん」

「見てた!」

「見てへん」

「惚れた?」

「なんでやねん」

「二十歳になったすずに、とうとう女を感じたんちゃう?」

「感じてへん」

即答すると、すずが口を尖らせた。

「ちょっとくらい悩めや」

「なんで俺が気ぃ遣わなあかんねん」

「ウチ、もう大人やで?」

「はいはい」

「女やで?」

「知ってる」

「結婚もできるで?」

「できるな」

「ほな、しよか」

「誰と」

「颯真兄ちゃんと❤️」

「せえへん」

「なんでや!」

…………。

ほんまに。

こいつは十五年前から、なんにも変わらん。


「で? 今日はバイト終わったん?」

「うん!」

すずは近くのケーキ屋でアルバイトをしている。

保育士になる。

そう言って、今は資格を取るために勉強中だ。

昔から子供みたいなやつが子供の面倒を見るらしい。

世も末や。

「なんか失礼なこと考えてへん?」

「別に」

「顔に書いてあるで」

「お前、字ぃ読めたんか」

「読めるわ!」

すずが俺の腕を叩く。

その手には、小さな紙袋がぶら下がっていた。

「なんや、それ」

「あ、これ?」

途端に機嫌を直して、すずが紙袋を持ち上げる。

「プリン!」

「またか」

「またちゃう。今日は店長がくれたん」

「昨日も食ってなかったか?」

「昨日のプリンと今日のプリンは別人や」

「人ちゃうわ」

「颯真兄ちゃんも食べる?」

「いらん」

「美味しいのに」

「お前が食いたいだけやろ」

「うん!」

即答。

ほんま、こいつは。


「なあ、颯真兄ちゃん」

「ん?」

「ウチな」

すずが俺の顔を覗き込む。

「二十歳になったで?」

「さっきから何回言うねん」

「せやから――」

にぃっと笑った。


「そろそろ、チュウしてみる?」


「しない」


「即答すんなぁ!」

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