急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る

21

「ミーリアム?」

 そう言って驚いた表情を見せるアイヴァン様の姿は上裸ではなく、ちゃんとシャツを着ている。

「まさかこのタイミングで!?」と言うのと「なんで服着てんの!?」と言うのが率直な感想。だがしかし、今はそんな事を考えている場合じゃない。

(ヤバ…)

 これは色んな意味でヤバい。招かれた家の主の私室に入り込み、ベッドに顔を埋めてニヤニヤしていたなんて、どう説明する?痴女と言うより変態でしかない。

「えっと、あの……」

 とりあえず何か弁明しなければと、混乱している頭で必死に考えた。

「あのですね、これには訳がありまして、話せば長くなるんですけど、アイヴァン様の上腕二頭筋が一緒に寝て、フカフカで匂いがですね……」

 泳いでいた目が溺れかけてる。もう、自分でも何を言っているのか理解が出来ない。羞恥心で、もはや虫の息。

(いっそ殺して)

 顔を両手で覆いながら天を仰いで、神に祈った。

「よいしょ」

 ギシッとベッドが沈み、隣に座った気配を感じる。

「そんなに慌てなくても、君がいることはエリオットから聞いている。メイジーが無理を言ったみたいですまなかったね」

「だから顔を見せてくれないか?」なんて優しい声で言われたら従わない訳ない。恐る恐る顔を見せると、眩しい程の笑顔を向けられた。

 この人の笑顔はどんな不安も打ち砕いてくれる。

「私と一緒にいるのが嫌なら、すぐに別の部屋を用意するが?」
「……答えを分かって聞いてますね?」
「どうかな?」

 クスクスと笑っている時点で肯定しているのだが、たまに見せる意地悪なアイヴァン様に胸のトキメキが止まらない。

 追い出されないという事は、少なからず期待を持ってもいいのだろうか?でも、あまりにも急なことで心の準備が……あ、下着は可愛いのだっけ?

「ほら、体が冷えてしまうだろう。こっちにおいで」

 いつの間にかベッドに入ったアイヴァン様が私を呼ぶ。その姿を目の当たりにした瞬間、ゴクッと息と共に雑念を飲み込んだ。

「……失礼します」

 緊張で吐きそうになりながら、アイヴァン様の隣に滑り込んだ。

 柔らかなベットは、体全体がゆっくりと吸い込まれるように沈んでいく。顔を半分を布団で覆えば、お日様とアイヴァン様の匂いがダイレクトに脳を刺激してくる。まさに夢心地。

「私のベッドに君が寝ているなんて、この目で見ても信じられないな」

 大きな手で頭を撫でてくれる。

「心配しなくとも手は出さないから安心して寝てくれていい」
「え!」

 本を手に取りながら言うアイヴァン様に、思わず飛び起きた。

 心配すべきところはそこじゃない。この人、絶対朝まで読書する気でいるじゃん。ここまでお膳立てされておいて、何もなしなんて……

「あんまりじゃないですか!」

 枕に顔を突っ伏して言った。

 ルディガーの話ではアイヴァン様は娼婦は相手に出来るらしいから、不能ではない。そうなると、単純に私に魅力がなくてその気になれないとしか思えない。

「……やっぱり、ボンキュッボンには勝てない……」

 呟きながら自分の胸を上げて寄せて谷間を作ってみるが、虚しくなるだけ。おこちゃま体系の私では、アイヴァン様をその気になんて出来ないのね……

 そう腐りかけているところへ「参ったな」と会心の一撃に息が止まった。

「……ちょっと……頭と心をリセットさせてきます……」

 涙を堪えて、ベッドを這い出ようと体を捻らせた。

「ま、待ってくれ!すまない!言葉選びを間違えた!」
「へ?」

 腕を掴まれ、再びベッドの中へ。すぐにアイヴァン様の腕に抱かれ、逃げ場を閉ざされてしまった。私としては美味しい状況なのだが、アイヴァン様の様子が気になる。

「ア、アイヴァン様?」

 顔を上げると、真剣な表情のアイヴァン様と目が合った。

「私は君を誰よりも大事に思っているんだ。……その、抱けるものならすぐにでも抱いてしまいたいが、そんな事をすれば君のご両親に合わせる顔がなくなってしまう。だから、せめて婚姻が済むまでは我慢してくれないか?」
「……アイヴァン様も我慢してる?」
「勿論。これでも自我を保つのにやっとなんだよ」

 苦笑いを浮かべながら言うアイヴァン様に釣られて「ふはっ」と笑いがこぼれた。

 色々気にしてくれたメイジーには悪いけど、私達には私達の順序がある。残念な気持ちもあるけど、ホッとしたのも事実。アイヴァン様の気持ちが分かっただけで十分だと思う事にした。

「じゃあ、手を握っててもいいですか?」
「あぁ」

 大きな手が差し出され、ソッと手を取った。ゴツゴツとした皮の厚い手。私の手が随分と小さく見える。両手で握りしめてもアイヴァン様の手の方が大きい。

「おやすみなさい。いい夢が見れそうです」

 枕に顔を埋めながら、微笑みかけた。

「……ミーリアム」
「ん?」

 顔を起こすと、フワッと石鹸の香りが鼻をかすめ、生乾きの髪が視界を横切るのが見えた。それと同時に唇に柔らかな感触を感じた。

 ほんの一瞬、唇に触れただけの軽いキス。

「大人のキスはもう少し慣れたら…な?」

 人差し指を唇に当て、したり顔で言うアイヴァン様。色気がダダ漏れで視界からの暴力がエグい。

(…大人のキス…)

 それは俗に言うディープなキッスの事でしょうか!?

 思考が復活すると、ボンッと爆発したよう全身が真っ赤に染まる。顔を隠すように慌てて布団に潜り込むと「くくくッ」と子気味良い笑い声が聴こえた。

 初めてのキスはあまりにも一瞬で、正直よく分からなかったけど、心はポカポカと多幸感で一杯。だらしなく緩んだ顔が戻らない。

「ゆっくりおやすみ」

 心地の良い声に、大好きな人の匂い染み付いたシーツ……眠気が染み込むのもあっという間だった。
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