急募 ガチムチ婚約者募集 *但し45歳以上に限る
22
アイヴァン様と婚約を結んで三ヶ月が経った。季節は深緑から錦秋を巡り、チラチラと雪が舞い始めた今日この頃……朝晩はめっきり冷え込み、吐く息が白に変わった。
毎年この時期になると、騎士団は遠征へ行く事が多くなる。それは今年も変わる事はなく、ここ数日は騎士団全体が慌ただしく、ピリついた空気を撒き散らしている。
寒くなればなっただけ、雪が降り積もり災害が起こりやすくなる。それだけじゃなく、腹を空かせた獣らが人里へとやって来る事もしばしば。
彼らも生きる為に必死なのは分かる。しかし、腹を空かせた獣にとって、人は美味なる獲物。毎年、何人も犠牲になっている。
その為、視察や駆除に駆り出される事がしばしば。一度遠征へ向かえば、最短でも十日。長期間となれば二、三ヶ月は帰って来ない。
今年はいつ頃向かうのだろう……
そんな事を思いながら過ごしていたある日──
「しばらく会えなくなる」
それは突然やってきた。
***
騎士団が遠征に向かうという連絡を受け、すぐにアイヴァン様の元へ急いだ。
王宮の門をくぐるとすぐにアイヴァン様率いる騎士らの姿が目に飛び込んできた。皆、武装し馬に荷物を乗せている。その中央で指揮を取っているのが、騎士団長であるアイヴァン様だ。
「アイヴァン様~~~~~~!」
「ん?──うおッ!」
全力でアイヴァン様の胸の中に飛び込んだ。驚きながらも、しっかり抱き留めてくれたアイヴァン様には感謝。
「驚いたな。どうした?……って、見送りに来てくれたのか?」
顔を埋めたままコクコクと頷いた。
「そうか、ありがとう。……連絡が遅くなってすまない。しばらく会えなくなってしまうな」
覚悟はしていたのに、面と向かって会えないと言われた途端、涙腺が崩壊。
「うっ…っうぅ……アイヴァン様……」
「ほらほら、泣くんじゃない」
アイヴァン様の大きな胸板に顔を埋めて泣きじゃくった。アイヴァン様は子供のように泣く私を宥めるように力強く抱きしてくれる。
今回は短期間の遠征だと聞いているが、何があるか分からないのが騎士というもの。考えたくもないが、今この時が今生の別れになってしまうかもしれない。そう思うと、涙が溢れて止まらない。
(行かないでとは言えないのが辛い…)
せめて、会えない間の分は抱きしめていて欲しいと強請ってみる。アイヴァン様は困ったように眉を下げていたが、抱きしめる腕にはちゃんと力が籠っていた。
「あ~…二人の世界に入ってる所ごめんけど、俺らもいるの分かってる?」
この絶妙なタイミングで声をかけてくるヤツといえば一人しかいない。
「……副団長……」
「チッ」と舌を打ちながらルディガーを睨みつけた。
「君さぁ、発情するなら時間と場所を考えてくれる?身内のラブシーンほど恥ずかしいものはないんだって。見せられてるこっちの気にもなってよ」
呆れると言うよりも若干怒りを含んだ物言いに、ようやく周りの様子に気が付いた。騎士ら全員が顔を赤らめて私達に釘付けで、若い騎士なんて茫然としたまま動けないでいる。まさに信じられないものを見せられていると言った表情だ。
まぁ、普段のアイヴァン様とは違う一面を見せられて驚かないはずもない。
「ゴホンッ……っと悪い。少し浮かれた」
「しっかりしてくださいよ?お嬢さんも、邪魔するなら帰ってくれる?」
珍しく真顔で咎めるルディガー。平坦で低い声色に足が竦む。初めて副団長たる威迫を発揮され、息が詰まりそうなほどの切迫感。
ハクハクと口を開け、呼吸を整えようとしていると視界が手で覆われた。
「ミーリアムが怯えてる。少し抑えろ」
「俺は悪くないでしょ?」
「……そうだな。私が悪かった。ミーリアムの顔を見たらつい……」
「こうなることを見越してたから、お嬢さんには黙ってるように言っておいたのに…誰?お嬢さんの耳に届けたの?」
ルディガーが騎士らを睨みつけると、ビクッと肩を震わせた者が数人いた。
「ふ~ん。君ら、後で俺のところね。少しお話しようか?」
満面の笑みを浮かべるルディガーに対し、顔面蒼白で全身を震わせている。立っているのもやっとと言った感じの状態に、ルディガーの恐ろしさを改めて痛感した。
「ルディガーが言った通り君には黙って出るつもりだったんだ。君の悲しむ顔を見たくなかったからな」
「そんなッ!」
アイヴァン様は分が悪そうに目を逸らしながら言った。
私にチクった騎士には申し訳ないが、教えてくれてありがとう。ルディガーに殺られても、骨は私が責任を持って拾ってあげる。
「でも、一目でも会えてよかった」
「絶対……絶対無事に帰ってきてください!」
「ああ、私にはお守りがあるから」
そう言って懐から取り出したのは1枚のハンカチ。端には不器用な剣と花の刺繍が施してある。
「あ、それは…」
「君から贈られたものだ」
アイヴァン様は大事そうに握りしめ、キスするようにハンカチを口元に当てた。
それは、夜会で渡そうと思っていた例のハンカチ。何だかんだと渡す機会を逃していたが、先日アイヴァン様の邸宅へお邪魔した翌日にソッとテーブルの上に置いてきた。
真正面から渡すのが気恥しくて、置き土産のような形になってしまったが……そっか。喜んでくれたのか……
それだけでも充分に嬉しい。ニヤける顔を両手で揉んで誤魔化す。
「必ず無事に戻ってくる。待っていてくれるか?」
「はい」
「いい子だ」
大きな手で撫でられ、私はアイヴァン様を見送った。姿が見えなくなってもその場から動かず、ジッと……
毎年この時期になると、騎士団は遠征へ行く事が多くなる。それは今年も変わる事はなく、ここ数日は騎士団全体が慌ただしく、ピリついた空気を撒き散らしている。
寒くなればなっただけ、雪が降り積もり災害が起こりやすくなる。それだけじゃなく、腹を空かせた獣らが人里へとやって来る事もしばしば。
彼らも生きる為に必死なのは分かる。しかし、腹を空かせた獣にとって、人は美味なる獲物。毎年、何人も犠牲になっている。
その為、視察や駆除に駆り出される事がしばしば。一度遠征へ向かえば、最短でも十日。長期間となれば二、三ヶ月は帰って来ない。
今年はいつ頃向かうのだろう……
そんな事を思いながら過ごしていたある日──
「しばらく会えなくなる」
それは突然やってきた。
***
騎士団が遠征に向かうという連絡を受け、すぐにアイヴァン様の元へ急いだ。
王宮の門をくぐるとすぐにアイヴァン様率いる騎士らの姿が目に飛び込んできた。皆、武装し馬に荷物を乗せている。その中央で指揮を取っているのが、騎士団長であるアイヴァン様だ。
「アイヴァン様~~~~~~!」
「ん?──うおッ!」
全力でアイヴァン様の胸の中に飛び込んだ。驚きながらも、しっかり抱き留めてくれたアイヴァン様には感謝。
「驚いたな。どうした?……って、見送りに来てくれたのか?」
顔を埋めたままコクコクと頷いた。
「そうか、ありがとう。……連絡が遅くなってすまない。しばらく会えなくなってしまうな」
覚悟はしていたのに、面と向かって会えないと言われた途端、涙腺が崩壊。
「うっ…っうぅ……アイヴァン様……」
「ほらほら、泣くんじゃない」
アイヴァン様の大きな胸板に顔を埋めて泣きじゃくった。アイヴァン様は子供のように泣く私を宥めるように力強く抱きしてくれる。
今回は短期間の遠征だと聞いているが、何があるか分からないのが騎士というもの。考えたくもないが、今この時が今生の別れになってしまうかもしれない。そう思うと、涙が溢れて止まらない。
(行かないでとは言えないのが辛い…)
せめて、会えない間の分は抱きしめていて欲しいと強請ってみる。アイヴァン様は困ったように眉を下げていたが、抱きしめる腕にはちゃんと力が籠っていた。
「あ~…二人の世界に入ってる所ごめんけど、俺らもいるの分かってる?」
この絶妙なタイミングで声をかけてくるヤツといえば一人しかいない。
「……副団長……」
「チッ」と舌を打ちながらルディガーを睨みつけた。
「君さぁ、発情するなら時間と場所を考えてくれる?身内のラブシーンほど恥ずかしいものはないんだって。見せられてるこっちの気にもなってよ」
呆れると言うよりも若干怒りを含んだ物言いに、ようやく周りの様子に気が付いた。騎士ら全員が顔を赤らめて私達に釘付けで、若い騎士なんて茫然としたまま動けないでいる。まさに信じられないものを見せられていると言った表情だ。
まぁ、普段のアイヴァン様とは違う一面を見せられて驚かないはずもない。
「ゴホンッ……っと悪い。少し浮かれた」
「しっかりしてくださいよ?お嬢さんも、邪魔するなら帰ってくれる?」
珍しく真顔で咎めるルディガー。平坦で低い声色に足が竦む。初めて副団長たる威迫を発揮され、息が詰まりそうなほどの切迫感。
ハクハクと口を開け、呼吸を整えようとしていると視界が手で覆われた。
「ミーリアムが怯えてる。少し抑えろ」
「俺は悪くないでしょ?」
「……そうだな。私が悪かった。ミーリアムの顔を見たらつい……」
「こうなることを見越してたから、お嬢さんには黙ってるように言っておいたのに…誰?お嬢さんの耳に届けたの?」
ルディガーが騎士らを睨みつけると、ビクッと肩を震わせた者が数人いた。
「ふ~ん。君ら、後で俺のところね。少しお話しようか?」
満面の笑みを浮かべるルディガーに対し、顔面蒼白で全身を震わせている。立っているのもやっとと言った感じの状態に、ルディガーの恐ろしさを改めて痛感した。
「ルディガーが言った通り君には黙って出るつもりだったんだ。君の悲しむ顔を見たくなかったからな」
「そんなッ!」
アイヴァン様は分が悪そうに目を逸らしながら言った。
私にチクった騎士には申し訳ないが、教えてくれてありがとう。ルディガーに殺られても、骨は私が責任を持って拾ってあげる。
「でも、一目でも会えてよかった」
「絶対……絶対無事に帰ってきてください!」
「ああ、私にはお守りがあるから」
そう言って懐から取り出したのは1枚のハンカチ。端には不器用な剣と花の刺繍が施してある。
「あ、それは…」
「君から贈られたものだ」
アイヴァン様は大事そうに握りしめ、キスするようにハンカチを口元に当てた。
それは、夜会で渡そうと思っていた例のハンカチ。何だかんだと渡す機会を逃していたが、先日アイヴァン様の邸宅へお邪魔した翌日にソッとテーブルの上に置いてきた。
真正面から渡すのが気恥しくて、置き土産のような形になってしまったが……そっか。喜んでくれたのか……
それだけでも充分に嬉しい。ニヤける顔を両手で揉んで誤魔化す。
「必ず無事に戻ってくる。待っていてくれるか?」
「はい」
「いい子だ」
大きな手で撫でられ、私はアイヴァン様を見送った。姿が見えなくなってもその場から動かず、ジッと……