学校一の王子様は、私にだけ甘すぎる。
第16話 特別扱いの理由は、もう秘密じゃない
新学期の教室は、春の光でいつもより明るく見えた。
「日向さんと一条くん、結局公認になったんだね」
「まあ、あれだけみんなの前でやったらね」
クラスメイトたちの生温かい視線にも、茜はもうすっかり慣れてしまっていた。隣の席で涼しい顔をしている蓮を、そっと肘でつつく。
「ねえ、みんなに見られてること、慣れた?」
「別に。最初から気にしてない」
「私は未だに慣れないんだけど」
「そのうち慣れるよ」
あっさりと言い切る横顔に、茜は小さく笑ってしまった。
◇
放課後、屋上で顔を合わせた悠真は、開口一番にやりと笑った。
「いやー、まさか本当にくっつくとはね」
「悠真くんのおかげでもあるよ、色々」
「そう? まあ、多少は骨を折った自覚あるけど」
悠真は肩をすくめながら、フェンスに寄りかかった。
「本国への報告、正直に書いたら大目玉くらったけどな」
「え、大丈夫だったの?」
「まあ、なんとか。うちの陛下も、最終的には殿下の意志を尊重するタイプだから」
軽い調子で言う悠真の言葉に、蓮が横から口を挟んだ。
「悠真がずっと、都合よく報告を遅らせてくれてたおかげだよ」
「ちょっと、その辺の詳しい話、私は初耳なんだけど」
「そのうち、ゆっくり話すよ」
顔を見合わせて笑う二人を見ながら、茜はなんだかんだで、この二人の絆が心強いと感じていた。
◇
その夜、茜のスマートフォンに、見慣れない国番号から一通のメッセージが届いた。翻訳アプリを通して読んだ文面には、丁寧な言葉で、こう綴られていた。
『はじめまして。フリーデリケと申します。この度は、おめでとうございます。あの人が、自分の意志で誰かを選べたことを、心から嬉しく思っています』
短い文章の最後には、こう添えられていた。
『わたくしにも、大切にしたい人ができました。どうか、末永くお幸せに』
画面を見つめながら、茜はなんとも言えない気持ちで胸がいっぱいになった。会ったこともない誰かが、こんなふうに祝福を送ってくれることに、素直に驚いていた。
◇
自分の部屋に戻った茜は、引き出しの奥にしまったままだった、古い絵日記を久しぶりに取り出した。
表紙をめくると、拙い字で書かれた一行が目に入る。
『こうえんで、しらないおとこのこにあいました。あめのひでした』
たったそれだけの、幼い自分が書いた記録。今となっては、その意味を知っている。茜は絵日記をそっと胸に抱いて、小さく笑った。
机の上のスマートフォンが震える。蓮からのメッセージだった。
『明日、一緒に帰ろう』
短い一文に、茜はすぐに返信を打った。
『うん、いつも通り』
送信ボタンを押しながら、窓の外を見上げる。夜空には、春らしい柔らかな月が浮かんでいた。
特別扱いの理由は、もう秘密でもなんでもない。ただ、これからも隣にいてくれる人がいる。それだけで、明日という日が、少しだけ眩しく思えた。


