歌う人魚と秘密の小屋で
 雑木林をもくもくと歩いていると、前を歩いていた瑞稀が足をピタと止めた。

小さくピアノの音が聞こえてきた。

控えめで静かで、どこか悲しいメロディだ。クラシックだろうか、前に聞いたのとは違う感じだ。

3人は止まり、目配せした。

頬に冷や汗が伝う菜摘。
「コレって…ちょっとヤバくない?」

あの小屋の中に、ピアノの主がいる。
さて、これからどうするか。

好奇心を抑えられない小春は、小さく行こう、と呟いてゆっくりと前に出た。

躊躇わない小春をありえないという顔で見る2人。
瑞稀と菜摘は顔を見合わせ、マジか…と視線で会話しながら小春について行く。

3人は開けたところに出た。足元はミツバのクローバーでびっしり覆われている。

そこにポツンと小さな小屋が1つ立っている。
満月と相まって、なんだか雰囲気が出ている。

生ぬるい潮風が小春の頬を撫でた。

ついにあの夜のピアノの主に会えるかもしれない。

小春は鼓動が早くなるのを感じた。
心臓の音が聞こえそうだ。
全身の毛穴という毛穴から汗が吹き出し、呼吸が乱れそうになりながらも歩みを進める。

小春だって一応女だ…少しの恐怖もないわけではない。

小屋に近づくにつれ、ピアノの音が大きくなる。

ゴクリと渇いた唾を飲み込む。

3人は忍び足で小屋の前まで行き、少し空いている玄関の扉をゆっくり開く。

額に滲んだ汗がたらりと落ちる。

そして、3人は中の様子を見てしまった。


風にヒラヒラとなびくカーテン。
月明かりの下で、ピアノを弾く不気味に髪の長い女の姿を。

こちらに気づいた女はピアノの手を止め、ゆっくりと振り向き…


「ギャーーーーーーーーーーーー!」
そこで耐えられなくなって大声で叫んでしまったのは菜摘だった。釣られて瑞稀も声にならない声を上げる。2人は雑木林に向かって走り出した。

小春は菜摘の声に驚き、緊張が最高潮に達したその瞬間、呼吸がうまくできなくなり…失神した。

体感ものの5秒程度だっただろうか。
2人の気配がない。まさかとは思うが私は置いて行かれたようだった。
嘘だろ、と思いながらぶつけた頭をさすり、イタタ。と起き上がる。

目の前には困惑して心配そうに顔を覗き込む髪の長い女…ではなく。

「汐見先生?」

小春は驚いて目を見開いた。
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