歌う人魚と秘密の小屋で


ザザーン…
波の音がする。見事な満月が昇りつつある。雲も少ない。今日は綺麗な夜になりそうだ。

小春たちは海辺に来ていた。
友人の瀬川菜摘、芦部雅也、片山ゆうか、本田瑞稀の5人で。

「しっかし、ここでお前がぐったりしてる時は死んだかと思ったぜ〜、生きてて良かったなぁ!!」

雅也の言葉にうんうん、と頷く友人たち。

「…もうあんまり危ないことはすんなよなぁ、ほんと。」

ぽつりとこぼすように続けた。

「お化け、いるかなぁ〜〜〜」

楽しそうに両手を胸の前で垂らしながら菜摘は言う。

「もうやめてよ、菜摘ちゃん。私既にもう怖いんだから…」

と眉をハの字にして片山ゆうかが菜摘を小突く。
その様子を見て本田瑞稀は呆れたようにやれやれと首を横に振った。

今日のことは母親には話していない。
まだ海辺には行ってほしくないだろうからだ。
でも今日は海が目的で来たのではない。
だから問題ないはずだ…母親への罪悪感から、小春は心の中で誰にいうわけでもない言い訳を考えていた。



件の小屋は海辺の雑木林を抜けた先にある、開けたところにあるらしい。雅也曰く、窓にはカーテンが引かれ、長いこと使われた痕跡がなかった場所だというが。


真夏の蒸し暑さの中、一行は懐中電灯の灯りを頼りに雑木林の中を進んでいく。

小春の額に汗が滲む。タオルか何かを持ってくるんだった。

途中、小動物か何かが動いたような音に片山ゆうかが声にならない声を小さく上げる。菜摘にピッタリ寄りそっている。菜摘は少々鬱陶しそうにしながらも歩いていた。

ガサガサッ

林の中から何かが急に飛び出してきた。
それを見たゆうかは悲鳴をあげ、転んで泣いてしまった。

ンニャーオ…

こちらを一瞥した猫は、また颯爽と雑木林の中に消えていった。

「大丈夫か!?」
雅也がゆうかに駆け寄る。どうやら足を挫いてしまったらしい。


あちゃーと雅也。

その足だとこの先は無理そうだ。
雅也はめそめそ泣いて謝る片山の肩に腕を回し、立たせた。


「片山、大丈夫か。ちょっと怖すぎたか。気にすんなよ。片山と俺は一旦車に戻る。悪いが瑞稀、昔キャッチボールして遊んでたから場所は分かるよな?先に3人で行っててくれ」

「大丈夫?ゆうか。気をつけてね…」
心配そうに見送る菜摘。

雅也とゆうかの2人は踵を返し、もと来た道を戻って行った。

戦力が5人から3人に減ってしまった。
人数が少なくなることでちょっぴり心許ない気持ちになる。

今なら帰ることもできる。

なにより、ゆうかのことも心配である。
しかし、ここまで来れば真相を確かめたいという好奇心の方が優っていた。

小春と菜摘と瑞稀の3人は顔を見合わせる。

どうする?と瑞稀。
まあ、なんかヤバかったら走って逃げれば良いじゃん、と菜摘。

「…じゃあ、怪我しないように気を付けて進もう。」
小春は言うと、3人はまた雑木林の中を進んで行った。


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