私にだけ素顔をみせる営業部主任の雨風くん。
 翌日も私はギターを手に地下通路に立つ。

 あちこちにちりばめられていたクリスマスの装飾は早くも撤去され、客引きのサンタクロース達は姿を消していた。いつもより足早な群衆に、年末の空気を感じる。

 ギターのチューニングをしながら、頭によぎるのは昨日の人のことだ。

 唯一の観客だと思っていたのにただの冷やかしだったなんて。しかも、相当悪質。
 思い出したくもないのに、脳裏に彼の声がリフレインした。

『きみ多分とっくに死んでるよ』

 ……意味がわからない。

 私はピックを摘まんだ左手を見た。透けてなんかいないし、ちゃんと足もあるんですけど。全く、ジョークにしても、どういうセンスをしてるのよ。

 八つ当たり気味に、弦を乱暴につま弾くと、私の怒りを乗せた耳障りな爆音が、地下通路に拡散された。その不快な音すらも、まるで聞こえていないかのように華麗にスルーしていく群衆。私にとっては慣れっこな、いつもどおりの光景だ。現代人は他人に興味なんかない。

「……それにしても」
 ふと、疑問が沸き起こった。

 どれだけ素人歌手だとしても、これほど徹底的に無視されるなんてこと、あるのだろうか? 冷やかしの一人や二人くらい、いそうなものだ。

 またしても、彼の言葉が蘇ってくる。

『俺以外にきみが視えてるやついないだろ』

「……そんな馬鹿な」

 その時、こちらへ向かって、セーラー服の二人組が走ってきた。電車にでも乗り遅れそうなのか、急いだ様子の二人は、ろくに前を見ていない。

 彼女らの進行方向には、私の身体があって――

「ちょっ……」

 ――ぶつかる!

 私は思わず両目をかたく閉じた。でも、衝撃はいつまでも訪れなくて。不思議に思ってまぶたを開くと、セーラー服の背中はとっくに小さくなっていた。

 さっきの二人、私を透過した?

「何が起こったの……?」
 意味がわからなすぎて、ピックを握る手が震える。

 困惑していると、折よくというかなんというか、見知った顔が北口方面から歩いてきた。昨日の冷やかし男だった。

―――彼なら何か知っているかも。
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