私にだけ素顔をみせる営業部主任の雨風くん。
「……誰にも言わないでよ、私がここで路上ライブしてること」
私は彼――篠生さんを横目で睨んだ。
篠生さんも目線だけをこちらに寄越す。
「言わないし。てか言ったところで誰にも視えんし」
「もしあなたのせいでばれたら、呪ってやる」
「は? 冗談でもマジやめて、そういうの」
自らの肩を抱いておおげさに怖がってみせる篠生さん。
適当に言ってみただけなのに、すっかり幽霊扱いじゃないの。
「――おっと」
篠生さんの方から着信音が聞こえた。鳴っているのは右手のスマートフォンではなく、鞄の中の会社用携帯らしい。
「うっ、得意先からの電話だ」
勤務時間外だが、こうした事態は彼にとっては日常茶飯事のようだ。篠生さんは素早く通話ボタンをタップする。
『悪いけど今日はこれで』
手のひらで詫びのジェスチャーをしてみせる彼。しかしその表情からは、「この場を去るためのちょうどいい建前を手に入れてほっとしています」という本音が透けて見えた。
「お世話になります、パール化成の篠生です。久しぶりじゃないですかあ。先月通院してた首ヘルニアは最近どうです? ああ、それはよかった。……で、どうしました。ハイ、勿論です! 僕に力になれることであれば……」
応答する篠生さんの声は、びっくりするくらい、穏やかで感じのいい営業マン。
呆れた……別人じゃないの。
私は呆気に取られながら、小さくなっていくその背中を眺めた。
私は彼――篠生さんを横目で睨んだ。
篠生さんも目線だけをこちらに寄越す。
「言わないし。てか言ったところで誰にも視えんし」
「もしあなたのせいでばれたら、呪ってやる」
「は? 冗談でもマジやめて、そういうの」
自らの肩を抱いておおげさに怖がってみせる篠生さん。
適当に言ってみただけなのに、すっかり幽霊扱いじゃないの。
「――おっと」
篠生さんの方から着信音が聞こえた。鳴っているのは右手のスマートフォンではなく、鞄の中の会社用携帯らしい。
「うっ、得意先からの電話だ」
勤務時間外だが、こうした事態は彼にとっては日常茶飯事のようだ。篠生さんは素早く通話ボタンをタップする。
『悪いけど今日はこれで』
手のひらで詫びのジェスチャーをしてみせる彼。しかしその表情からは、「この場を去るためのちょうどいい建前を手に入れてほっとしています」という本音が透けて見えた。
「お世話になります、パール化成の篠生です。久しぶりじゃないですかあ。先月通院してた首ヘルニアは最近どうです? ああ、それはよかった。……で、どうしました。ハイ、勿論です! 僕に力になれることであれば……」
応答する篠生さんの声は、びっくりするくらい、穏やかで感じのいい営業マン。
呆れた……別人じゃないの。
私は呆気に取られながら、小さくなっていくその背中を眺めた。
