ギャルが異世界にトリップしたら、暗殺一家の大公子とスパダリ婚する事になりました

29.異世界で、大捜査編開幕しまーす⑤

甘野芣婭 (17歳)
 
目の前に現れたガゼルっちは想像以上に身長も大きく、鍛えられた体には多くの傷跡が残っていた。

「ガゼルッ、僕は大丈夫だよ。お姉ちゃんが庇ってくれたんだっ」

「お姉ちゃん?コイツか」

ゼパ君の言葉を聞いたガゼルっちは、芣婭の顔をジッと覗き込んではガン見される。

この状況、かなり恥ずかしんですけど…。

「「キイエエエッ!!!」」

「あっ、あの化け物がっ、また!!!」

「芣婭達の所に飛んでくるよ⁉ゼパ君、危ないからギュッとされててね!」

「…」

化け物達が口を大きく開けて、芣婭に手を伸ばしてきた時、ガゼルっちがは化け物の手首を掴んで握り潰した。

ガシッ、ゴキッ!!!

痛々しい骨の折れる音が近くで聞こえ、目の前で見る事がない光景に視線を奪われてしまう。

「ギイエエエッ!!!」

ガゼルっちに手首を折られた化け物は苦痛の声を出すが、ガゼルっちは容赦なく化け物の顔を殴り付ける。

ドカッ!!!

殴られた化け物の体を後方に吹き飛び、ガゼルっちは片手で芣婭の事を抱き上げ、地面を強く踏むと一瞬で天井までジャンプした。

ビュンッ!!!

「うわわわっ⁉がぜるっち、むっちゃ飛ぶね⁉」

「しっかり首に手を回せ、ここから離れるぞ」

「えっ、ギルベルト君達も一緒だったんだけどっ、おわっ!!!」

ガゼルっちは片手で鉄骨の棒を掴み、次々と鉄骨の棒を掴んで、バトルロワイヤルの会場から脱出する事に成功し、外の様子が視界に入る。

本物のサーカスの団員並みに軽やかに動き、芣婭は振り落とされないように首にしがみつく。

バトルロワイヤルの会場の外にも化けもの達がいて、お客さん達を襲っている姿が見え、マジでとんでもない事になっているようだ。

化け物達を見ながら、バフォさんが言ってた話を思い出す。

もしかして、この化け物達って悪魔ってヤツでは⁉

あのー、あの名前なんだっかな?

変な薬を一緒に作ってる悪魔が呼び出してる可能性ってありませんか?

「ひとまず、ここに身を隠すぞ」

「あ、うん」

ガゼルっちはそう言って、小さな木で作られた物置の前に着地し、化け物達に姿が見えないように中に入る。

「ゔっ!」

「ガゼルッ⁉どうしたのっ!!!」

ゼパ君の慌てた声を聞き、視線を向けると脇腹を押さえて顔を歪ませたガゼルっちは、近くに積まれていた木の箱に背中を預け、力が抜けたように座り込んでいた。

よく見てみると、脇腹部分に巻かれた包帯が血で滲んでいて、誰が見ても傷口が開いたと分かる。

いくら獣人とは言えど、食事も治療もまともに受けて
いない状態で戦わされていたら、いつ倒れてもおかしくない。

どうしよう、手当をした方が良いよね?

うん、普通に考えたら手当した方が良いに決まってる。

治療魔法とか使えないし、と言うか使い方も分からないんだった!

あー!こういう時の為に、パパやギルベルト君達に魔法を教えてもらっとけば良かったっ!!!

そう思いながら置かれている木の箱を開けてみるが、中に入っていたのはいかにも爆弾って形をした爆弾と手榴弾が入っていた。

「他の箱の中に入ってるかも…、ゼパ君はガゼルっちの側にいてあげて」

「わ、分かった!」

ゼパ君にがぜるっちの事をお願いして、芣婭は物置の中を物色する事にし、次々と積まれている木の箱を開封していく。

治療セットが入ってる物は当然なく、この部屋の中にある木の箱は銃や怪しげな薬しか入っておらず、落胆してしまう。

これだけの箱があるのに、医薬品的な物が1個もないないなんてありえます?

それかここが闇市場(ブラックマーケット)だからか?怪しい物しか置いてないとか?

「ガゼルッ、血がっ!!!顔色も悪いよっ」

背後からゼパ君の叫ぶ声が聞こえ、振り返ると右の脇あばらを押さえて苦しんでいるガゼルっちが視界に入る。

「はぁ、はぁ、俺は平気だ。お前の無事な姿を見たら、力が抜けちまったのかもな…」

「大丈夫だよ、ガゼル。ギルベルト様と黒騎士団(ブラックナイト)の人達を連れてきたんだよっ」

セパ君の話を聞いてはいるが、答える事は出来ないくらい開いた傷口が痛いんだ。

ガゼルっちの傷を治す方法は1つだけある、芣婭の血を使えば治せる。

でも、芣婭の事を好きじゃないと傷は治せな言ってたから、ガゼルっちに好きになってもらわないとダメで…。

恋愛感情じゃないとダメなのかな?心を許すだけじゃいけないのかな?

シュウウウ…。

ガゼルっちの体から蒸気のような煙が立ち込め、視線を向けると人の姿から漫画で見た事がある獣人の姿になっていた。

これがガゼルっちの本当の姿?狼人間みたいな見た目に戻ってきていて、芣婭の事を獲物を見るような視線を向け、鋭い牙が光って口から唸り声が漏れ出る。

「ガルルッ…」

「だめだよ、ガゼルッ!!!」

「ガルルルッ!!!」

「ガゼルッ!!!」

ダンッ!!!

ゼパ君の言葉を無視して、ガゼルっちは見えない速さで芣婭の体を床に押し倒し、両手首を片手で掴まれ体の自由を奪われてしまう。

ドサッ!!!

押し倒された衝撃で背中に衝撃と痛みが走り、「痛っ」と小さな言葉が漏れ出る。

「ガルルルルッ!!!」

「っ!!!」

ブチッ!!!

芣婭の顔の近くで洗い息遣いが聞こえ、乱暴に胸元のシャツのボタンを外され、今にも食べられてしまいそうな状況になっていた。

「おおお、落ち着いて⁉ガゼルっち⁉」

「ガルルルッ!!!」

「やめてよ、ガゼルッ!!!おねえちゃんの事を傷つけたらっ、だめだよっ!!!」

少年の姿に戻ったゼパ君がガゼルっちの足に抱きついて止めに入り、芣婭とゼパ君が声をかけても反応がない。

何回か呼びかけても、ガゼルっちが正気に戻る気配もなければ、両手首を掴んでいる手の力も緩める気配がない。

正直、捕まれている手首は痛いし、ガゼルっちの長い爪が皮膚に食い込んでいく。

「ガルルルルッ!!!」

「ガゼルッ!!!うわっ⁉」

ガゼルっちは乱暴にゼパ君の事を引き剥がし、獣の捕食本能のままに口を大きく開けて、芣婭の首元に噛み付こうとする。

噛まれるっ!!!

ガブッ!!!

危険を感じ思わず瞼をギュッと強く閉じた時、ピチャッと何か液体が数滴、頬に落ちてくる感覚がして目を開けると、ガゼルっちが自分の腕を噛んでいた。

鋭い牙が腕の皮膚に強く刺さり、傷口から溢れ出た血液が腕を伝って、芣婭の頬に落ちてきていたようだ。

まさか自分の腕を噛んでるとは思ってもなかったから、目の前の光景に自分の目を疑ってしまった。

「ガゼルっち…?」

「フーッ、フーッ!!!」

「芣婭の事を噛まないように、自分の腕を噛んでるの?」

「に、げろっ、はやくっ!!!」

ガゼルっちはそう言いながら芣婭の両手首を離し、押し倒された衝撃でずれていたウィッグが外れて長い髪が現れる。

パサッ。

こんな時に、こんな事を考えてしまうのは不謹慎だと思います。

ですが、許して下さい。

押し倒されているこの状況は乙女ゲーの世界だったら、最高に美味しい場面なのだが…。

あー、これがプレイしてる側だったら、スクショもんのシチュエーションで、鼻血ものなんだけど…。

芣婭にはギルベルト君がいるんだから、この状況は浮気と同じくらいに罪が重い、死罪レベルだ!!!

ガゼルっちが好意的に芣婭の事を押し倒して来た訳じゃないし、芣婭もやましい気持ちがあって押し倒された訳じゃないし!!!

ググッと牙を深く腕の皮膚に食い込ませ、捕食本能を抑えようとしている姿は痛々しい。

この状態をどうしたら治せるのか、ゼパ君なら分かるかも!

「ゼパ君っ!この状態って、どーしたら治るの⁉」

「えっ、えっと、傷が治れば人の姿に変身できるよ。今のガゼルは傷を治す為に、お姉ちゃんの事を食べようとしてるのっ」

「おっけー」

甘野芣婭17歳、ここは腹を括るしかないでしょ!!!

「ガゼルっち、芣婭の血には傷を治す力があるの。でもね、傷を治すには条件?みたいなものがあるの」

「ガルルッ…」

ガゼルっちは芣婭の話を聞こえているようで、耳を傾けてくれるようで、腕から口を話そうとしない。

芣婭はガゼルっちの顔に手を伸ばし、両手で頬に触れて、お互いの視線が重なり合わせるように顔を近付けさせる。

口から腕が離れ、腕に残された深い噛み傷から血が垂れ落ち、物欲しそうな視線が芣婭の首元に向けられた。

何故か分からないけど、顔を近付けたとしてもガゼルっちは芣婭の事を傷付けない事が分かっていたから。

「ガゼルっち、芣婭の事を好きになって」

「は…?」

「芣婭の魔法は、芣婭の事を好きになってくれないと発動しないの。芣婭はガゼルっちの傷を治したい、治してあげたい」

そう口にした瞬間、背中から薄いピンク色の光が放ち、ピンク色の薔薇の花弁が舞い、黒色の棘が現れガゼルっちの腕に巻き付いた。
 
***

この時、甘野芣婭はレイラがケルベロスに言った条件を既に満たしていた事に気付いていなかったのだ。

魔性の女(エンチャトレス)を発動するには、2つの条件があります。

1つは自分に好意を持っている男性か女性が傷を負ってしまった場合、自身の血液を使って治療を行い、対象者の体に自分のモノであると言う証が刻まれる。

2つ、自身が好意を持つように命令した場合、傷を負っている男性か女性は無条件で心を許し、体に自分のモノであると言う証が刻まれる。

ガゼルの場合は2つ目の条件に当てはまり、甘野芣婭は無意識に条件の2つ目をみたし、魔性の女(エンチャトレス)を発動させれるようになっていた。

甘野芣婭に言われる前から、ガゼルはバトルロワイヤルの会場で甘野芣婭に対しての警戒心は持っていなかったのだ。

セパの事を身を挺して守った姿を見たからでもあるが、甘野芣婭の体から香った甘い桃の匂いを嗅いだからでもある。

獣人族は人間よりも優れた嗅覚と聴覚を持ち、敵意を持っている人間の香りも獣人であるガゼルは当然、分かっていた。

***

ガゼル (24歳)
 
あの会場で、セパの事を身を挺して守ろうとしている
姿が視界に入ったから、ゼパの事を抱きかかえていたアイツの体を引き寄せたのが間違いだった。

獣人の本能を搔き乱すような甘い桃の香りを漂わせ、
柔らかい体に片手で潰せそうな細い腰。

男の恰好をしているが匂いで分かる、コイツは女だ。 

ゼパの事だけを連れて会場から逃げ出せたのに、俺は何で女の事まで連れ出していたんだ?

妙な化け物達から身を隠す為に物置に到着した時、2日前に負った脇腹の傷口が開き、鈍い痛みが走る。

「ガゼルッ⁉どうしたのっ!!!」

包帯の上から血が滲んでいるのを見たゼパは、泣きそうな顔をして俺の側に駈け寄り、連れて来た女も心配そうな顔を向けてきた。

何とかゼパの事を心配させないように言葉を投げ掛けるが、思った以上に負った傷が深いらしい。

さっきの試合の時に身体強化(フィジカルブースト)を使ったから、魔力と体力の消費が大きかったな。

人の姿をいつまで保てるか?獣人の本来の姿は獣の姿であり、その姿は簡単に人に見せないのが暗黙のルールだ。

あぁ、こんな時にっ、あの女の体から匂う甘い香りが鼻を通り、獣の本能である捕食本能が掻き立てられ、理性を失いそうになる。

まずい、これはっ、本能を抑えられそうにない。

腹が減った、血が少ない、腹減った、あぁ、あの女、
スゲー旨そう。

シュウウウ…っと体から蒸気のような煙が立ち込め、
人間の姿を保てなくなっていまい、獣人の姿で女の元に向かう。

ゼパの俺の事を止める言葉が聞こえたが、今の俺には正常な判断は出来ない。

とにかく空腹を満たしたい、この女の血を啜りたいとしか考えられなかった。

「うわっ!」

ブチッ。

女の両手首を肩で掴んで拘束して床に押し倒し、胸元のシャツのボタンを乱暴に外し、白い肌が露わになる。

ゴクッと唾を音をたてながらの飲み込み、口から涎が出そうなくらい甘い香りが強くなっていた。

「やめてよ、ガゼルッ!!!おねえちゃんの事を傷つけたらっ、だめだよっ!!!」

「ッ!!!」

ゼパが俺の足に力強く抱き付き、女の事を食わせないように止めに入って来るが、ゼパの事を巻き込まないように遠くに追いやる。

女のピンクレッド色の瞳が砂糖菓子の飴のように輝き、舐めたら甘いんじゃないかって錯覚せてきやがる。

何で、この女は泣き叫んだり、大声を出して暴れたりしない。

普通は騒ぐものないんじゃないのか?

無防備すぎる、この女は何なんだ?

甘い香りが強い首筋に鼻を近付けると更に香りが強くなり、これ以上は近付いたらだめだと理性が働き、衝
動を抑える為に自分の腕に噛み付く。

ガブッ!!!

腕に走る鈍い痛みのお蔭で少し冷静になり、女に逃げるように言うが女は逃げようともしない。

さっさと逃げろ、俺の事なんてほっておいて逃げ出せよ。

だが、俺の願いとは裏腹に女は逃げようとしないし、なんなら動き出す気配がない。

「芣婭の事を噛まないように、自分の腕を噛んでるの?」

そう言って、女は俺に心配そうな眼差しを向けて、瞳を潤ませる。

この女は悪魔か何かか?男を挑発するような匂いをさせて、逃げるチャンスを与えたのに逃げ出さないで。

女とゼパが何かを話してたが突然、女が俺の頬を掴んで顔を近付けさせてきたのだ。

「ガゼルっち、芣婭の事を好きになって」

何を思って言い出したのか、女は訳の分からない言葉を言い出す。

マジで、何を考えてるんだ?この女は。

「は…?」

「芣婭の魔法は、芣婭の事を好きになってくれないと発動しないの。芣婭はガゼルっちの傷を治したい、治してあげたい」

女が言葉を放った瞬間、ピンク色の魔法陣が現れ、ピンク色の薔薇の花弁が舞い、黒色の薔薇の棘が腕に巻き付く。

「何者なんだ、アンタ…、これは魔法か」

「芣婭にしか使えない魔法…かな」

女はシャツの袖を捲り、美味しそうな腕を差し出し、俺に噛むように勧めるが、そんな言葉は耳に届かなかった。

差し出した腕を掴んで地面に押さえつけ、シャツからはだけている肩に口を近付け、少し赤くなった肩を舐めてから牙を食い込ませた。

ガブッ。

「あっ…」

女の肩に噛み付き、口の中に血液が流れ込んだ瞬間、傷口が開いている脇腹に赤色の蝶達が止まり、細いピンク色の糸が傷口を塞いでいく。

チュッと音をたてて甘い血液を吸い上げる度に魔力が戻って行く感覚がし、逃げる女の腰を掴んで抱き寄せた。

***

ガゼルが甘野芣婭を連れ出した後の会場では、怒りが頂点に達していたギルベルトをシュバルトが宥めていた。

「あの男はどこに行きやがった…」

「い、怒りを鎮めて下さいっ、ギルベルト様っ。ガゼルと言う少年の後を、シエサが追い掛けて行ったようですから。それに彼は傷を負っている身、遠くにはいけない筈です」

「ギルベルト様ああああっ!!!」

ギルベルトとシュバルトの2人が話していると、半泣き状態のヒューズとローレンツ達がこちらに向かって来るのが見え、ギルベルトはヒューズ達を睨みながら口を開く。

「貴様等、今頃になって来たのか」

「「「っ!!!」」」

黒騎士団(ブラックナイト)の団員達は顔を真っ青にさせながら、ギルベルトの前で跪き、顔を上げないように下を向いた。

パキパキッ!!!

ギルベルトの足元から冷気が漂い、地面が音を立てて凍って行き、ギルベルトが本気でキレているのがヒューズとローレンツを含めた団員達は察する。

「下級の悪魔に手を焼いてどうする、お前等がもたもたしていた所為で作戦に大幅な遅れが生じた。どう責任を取るつもりだ?お前等」

「も、申し訳ございませんっ!ギルベルト様っ…」
「謝罪ではなく、どう行動していくのかと聞いている」

「おやおや?そこにいるのは大公子殿下ではないか」

「「「ゲッ⁉」」」

ヒューズと団員達はギルベルトに声をかけてきた人物を見て、同じタイミングで表情と言葉が重なった。

タイミングと言うのは重なる時は重なるもので、ギルベルトと黒騎士団(ブラックナイト)の団員達の前に、ガルバット率いる白騎士団(ホワイトナイト)の団員達が現れる。

「皇太子…、何故こちらに?」

ギルベルトに声をかえてきたのは、河邉菜穂とアウラを連れたルカリオだった。

憎たらしい相手に向ける目付きをしながら、ギルベルトはルカリオに尋ねる。

「近頃、怪しげな薬が出回ってると聞いてね?敵情視察?と言ったら良いのかな。君は執事の服装をして、こんな所まで足を運んできたのか?大公子と言うのは、暇な肩書なのかな」

ルカリオの発言を聞いたヒューズ達の顔から更に血の気が引き、それはガルバット達も同じようだ。

明らかにギルベルトに対して喧嘩を売る言葉を吐き、ルカリオはギルベルトがどんな反応するのか楽しみしている。

ギルベルトの事を怒らせないように、ガルバットが2人の間に入り、ルカリオに頭を下げてから口を開く。

「皇太子殿下、宮廷までお送りします。ここには現在、下級の悪魔達が出没しております故、皇太子殿下の身の安全を…」

「あぁ、僕の身を守る事が君達の仕事だったねぇ。戻る前に、この女の事を紹介しておきたい」

ガルバットの言葉に答えながら、ルカリオはギルベルトの前に河邉菜穂を出し出す。

ギルベルトは前に押し出された河邉菜穂には目も止めずに、ルカリオに言葉を投げかける。

「何のつもりですか」

「君やそこにいる黒騎士団(ブラックナイト)達にも、うちの光の姫(ライトプリンセス)の事を守ってもらう機会があるだろうからね」

「光の姫(ライトプリンセス)?何故、俺やコイツ等が顔を覚える必要が?そちらの姫は白騎士団(ホワイトナイト)の仕事でしょう」

光の姫(ライトプリンセス)と言うワードを聞き、ヒューズとローレンツ、エリアの3人を含めた黒騎士団(ブラックナイト)の団員達の視線が、河邉菜穂に注がれた。

「皇太子殿下の言ってる事は本当なのか?」

「だとしたら、ギルベルト様のフィアンセと同じく異世界人?」

黒騎士団(ブラックナイト)の団員達の会話を聞いていた河邉菜穂は、下を向いて緩む口元を隠す。

「この国の希望になる姫は、皆で守るべきではないかい?それとも、守りたくない理由でも?」

ルカリオは含みのある笑みを浮かべて、ギルベルトに問いかけるが、ギルベルトはルカリオの事を挑発するような言葉を吐いた。

「えぇ、俺の可愛いフィアンセが嫌がりますからね。申し訳ありませんけど、自分の女以外の女には触れたくもありませんね」

「「っ⁉」」

ギルベルトの言葉を聞いたルカリオと河邉菜穂の表情が歪み、ルカリオの眉間に深い皺が入る。

ルカリオの歪んだ表情を見たギルベルトは、フンッとマウントを取るような笑い方をし、2人の空気に嫌な空気が流れ始めた時だった。

ケロちゃんは黙ったまま、ガシッと力強くギルベルトの腕を掴み、何も言わずに手を引いて勢いよく走り出す。

「ギルベルト様⁉え、ええええ⁉」

「エリア」

「了解っ」

いきなり走り出した2人を見て、驚くヒューズの隣でローレンツは冷静に指示し、エリアはすぐにギルベルトとケロちゃんの後を追う。

「お、おいっ、ケルベロスッ!俺に手を掴んで走り出したって事は、芣婭に何かあったのかっ?」

「ええ、芣婭が魔性の女(エンチャトレス)を発動させました」

「何だって?」

「下級の悪魔達が一斉に、芣婭の所に向かって行くはずです。魔性の女(エンチャトレス)が発動した事で、悪魔にしか感じない魔力を感じました。貴方は黙って、俺に連れられて下さい」

甘野芣婭が魔性の女(エンチャトレス)を発動させた事によって、魔力を感じたケロちゃんがギルベルトを連れ出したのだ。

バッ!!!

全く同じタイミングで、甘野芣婭の魔力を感じたベロちゃんとバエルの2人は、一斉に同じ方向に顔を向けた。

「こんな所で、魔性の女(エンチャトレス)を持つ人間がいたんだねぇ。その人間を持ち帰ったら、喜んでくれるなぁ」

「テメェ、うちの姫に手を出したら殺すぞ」

「君に脅されても何も怖くないし、こんな人間達の相
手をするのが僕の仕事じゃないしさ?おーい、蜘蛛騎士(スパイダーナイト)。寝てないで、さっさと起きて」

バエルの言葉を聞いた頭を潰された蜘蛛騎士(スパイダーナイト)は、6本の足をばたつかせながら立ち上がる。

起き上がった蜘蛛騎士(スパイダーナイト)の背中に飛び乗り、バエルを乗せた蜘蛛騎士(スパイダーナイト)は窓に体当たりし、外に出て行ってしまう。

パリーンッ!!!

「チッ、あの糞蜘蛛女がっ!!!おい、コンラット!お前も来い!!!」

ガシッ!!!

「は?行くってどこに…、うおっ⁉」

ベロちゃんはコンラットの問いに無視し、乱暴にコンラットの服の首元を掴み、移動(ワープ)と呪文を唱える。

すると、ベロちゃんの足元にも灰色の魔法陣が現れ、
ランスロットとレヴァリオの前から2人の姿が消えた。
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