キスを拒んだら、学校一の沼男に捕まりました

教室に入って早々、友達の青山(あおやま)梨沙子の机の上に広げられた雑誌が目に飛び込んできて、私は思わず声を上げた。

「おはよ、咲奈。ああ、これ? 『men's Black』の最新号だけど? 兄のを借りて読んでるの」

『men's Black』とは、須藤先輩が専属モデルを務める男性向けファッション雑誌だ。

表紙いっぱいに大きく写った先輩の顔が、なんだか今の私を見透かしているみたいで、心臓がドクンと跳ねる。

「イケメンだよねぇ、海里くん。偶然同じ学校だったのって、ほんと奇跡だわ」

梨沙子がうっとりした目で、雑誌に載っている先輩を見つめる。

梨沙子は、須藤先輩がモデルデビューした中学生の頃から彼のファンらしく、その熱量は本物だ。

「あ、そうだ咲奈、知ってる? 海里くん、この間まで同じモデルの三年の先輩と付き合ってたらしいよ」

「え?」

「なんか、共演がきっかけで付き合い始めたんだけど。一ヶ月も経たないうちに、もう別れたんだって。SNSでその先輩が、匂わせみたいな投稿してるの見た子がいてさ」

さらりと語られた話に、私は思わず息をのんだ。

一ヶ月も経たないうちに、別れた。

そんなに簡単に、人の気持ちって終わってしまうものなんだ。

「海里くんって、本当に彼女がコロコロ変わるよね。今度は誰なんだろうって、みんな噂してるくらい」

梨沙子が、まるで芸能人のゴシップでも話すみたいに、軽い調子で言う。

その温度差に、妙に胸のあたりがひやりとした。
< 13 / 16 >

この作品をシェア

pagetop