キスを拒んだら、学校一の沼男に捕まりました
教室に入って早々、友達の青山梨沙子の机の上に広げられた雑誌が目に飛び込んできて、私は思わず声を上げた。
「おはよ、咲奈。ああ、これ? 『men's Black』の最新号だけど? 兄のを借りて読んでるの」
『men's Black』とは、須藤先輩が専属モデルを務める男性向けファッション雑誌だ。
表紙いっぱいに大きく写った先輩の顔が、なんだか今の私を見透かしているみたいで、心臓がドクンと跳ねる。
「イケメンだよねぇ、海里くん。偶然同じ学校だったのって、ほんと奇跡だわ」
梨沙子がうっとりした目で、雑誌に載っている先輩を見つめる。
梨沙子は、須藤先輩がモデルデビューした中学生の頃から彼のファンらしく、その熱量は本物だ。
「あ、そうだ咲奈、知ってる? 海里くん、この間まで同じモデルの三年の先輩と付き合ってたらしいよ」
「え?」
「なんか、共演がきっかけで付き合い始めたんだけど。一ヶ月も経たないうちに、もう別れたんだって。SNSでその先輩が、匂わせみたいな投稿してるの見た子がいてさ」
さらりと語られた話に、私は思わず息をのんだ。
一ヶ月も経たないうちに、別れた。
そんなに簡単に、人の気持ちって終わってしまうものなんだ。
「海里くんって、本当に彼女がコロコロ変わるよね。今度は誰なんだろうって、みんな噂してるくらい」
梨沙子が、まるで芸能人のゴシップでも話すみたいに、軽い調子で言う。
その温度差に、妙に胸のあたりがひやりとした。