キスを拒んだら、学校一の沼男に捕まりました

「それがさ、アラームの音じゃどうしても起きられないんだよね。誰かに直接起こしてもらわないとダメで」

「だからって、なんで私なんですか。保健室の先生に頼むとか、他にあるでしょう」

「ん〜、俺に頭突きした償い、かな?」

そう言って須藤先輩は、悪戯っぽく自分の額を指さした。

「見て、ここ赤くなってるでしょ? まだ地味に痛むし。下手したら、今日の撮影に支障が出ちゃうかも」

「……っ」

「本当なら、傷害罪で訴えてもいいレベルだけど」

傷害罪って、ちょっと大袈裟すぎない!? 先輩のおでこ、ほんのり赤くなってるだけなのに。

この人の言ってること、めちゃくちゃだ。

耳元に先輩の唇が近づき、思わず肩が跳ねる。

「もし、咲奈ちゃんが俺の頼みを聞き入れてくれたら許してあげる」

う、息が耳に……あれ。

ふいに、彼の視線が私の顔をじっと見つめてきた。さっきまでの意地悪な笑みが、ほんの少しだけ影を潜めている。

「キミ、顔色悪くない?」

「え……」

心臓が、変な音を立てた。

からかうような響きは、もうどこにもない。ただ静かに、こちらの顔を覗き込んでくる目。

「さっきからずっと、なんか辛そうな顔してるけど」

そんなふうに気づかれているだなんて、思ってもみなかった。

頭痛のことなんて、一言も言っていないのに。

さっきまでの、人をからかうときの目とはまるで違う。

もしかして、心配してくれてる……?
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