キスを拒んだら、学校一の沼男に捕まりました
ううん、そんなわけない。だって、たった今会ったばかりの人だ。
なのに、心臓の音がうるさいくらいに響いて、うまく言葉が出てこない。
それに、こんなふうに誰かに真っ直ぐ気にかけてもらえることに、私はあまり慣れていない。
だから、なおさら分からなくなる。この人が今、何を思ってこっちを見ているのか。
視線を逸らそうとするのに、なぜか身体が言うことを聞いてくれない。
先輩の目の奥に、さっきまでとは違う何かが揺れている気がして、そこから目を離せなくなる。
「だっ、大丈夫です」
やっとの思いで、そう答えるのが精一杯だった。
「そ。じゃあ、明日ちゃんと起こしに来てよね」
一瞬の静けさなんてまるでなかったみたいに、すぐにいつもの、人を食ったような笑顔に戻ってしまう先輩。
今の、何だったんだろう。
戸惑う私をよそに、話はもう次へと進んでいるらしい。
「起こしにって、そんなことできるわけ……」
「あっ、海里。こんなところにいた〜!」
私が話している途中で、須藤先輩のファンであろう二年の派手な女の先輩が二人、保健室の扉から顔を覗かせた。
華やかな見た目とよく通る声。この二人が並ぶと、それだけで場の空気が変わる。