ホテルオーナーの執着愛~地味でぽっちゃりな私にだけ甘すぎます~
隆矢が去った方に向けて、大きく伸びをする。
(最近の横柄さには、うんざりだったもの。プロポーズされて浮かれていたけど、よくよく考えると結構前からお互いの気持ちが冷めていたのかも。ここが別れ時だったんだ。結婚相手はよく考えて――あれ? 婚姻届は?)
手に持っているつもりだった婚姻届がなくなっていた。
落としたかと思って暗い足元に目をこらしていると、戻ってきたタクシーがアパート前に止まった。
それに乗り込もうとしているのは海崎だ。
「鈴花、おやすみ。また明日、ホテルで会おう」
「あっ、はい。おやすみなさい」
軽く手を振る彼の指先に、なにかの紙が挟まっていた。
それが婚姻届であることに気づき、慌てて引き留める。
「待ってくださ――あっ、どうしよう。行っちゃった」
ハンドバッグから携帯を出して電話をかけようとし、まだ連絡先を交換していなかったことに気づく。
(明日まで話ができない。でもまさか勝手に出さないか)
たしか証人欄に二名のサインも必要だったはずで、そんなにすぐに提出はされないだろう。
明日話せばいいと思い、焦りを収めた。
九月の夜は秋らしい気温で、夜風に体を震わせる。
家に入ってまずは浴室へ。
壁の薄いアパートなので他の住人に迷惑をかけないよう、入浴や洗濯は早めに済ませないといけない。
温かいシャワーを浴びながら婚姻届について考える。