今夜、あなたを襲います 高嶺の花令嬢が既成事実を狙ったその顛末
 孤高の花、などと呼ばれるようになったのは、いつからだっただろう。
 たった一人の人に振り向いてもらいたくて清廉な淑女を演じ続けていたら、いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。

「まあ、ビクトリア様。今日もなんてお美しいの」
「ありがとうございます。リエーヌ様もとても素敵ですわ」

 王宮で開催された夜会で声をかけられたビクトリアは、にこりと微笑んだ。

 侯爵令嬢ビクトリア・フォスター、十九歳。
 艶やかな金髪に、澄んだ紫の瞳。すらりとした肢体に、優雅な物腰。ダンスも刺繍も楽器も一通りこなし、外国語にも堪能。誰に対しても分け隔てなく接する、非の打ちどころのない完璧な淑女。

 ――ということになっている。

「……あ」

 取り繕っていた完璧な淑女の顔が、一瞬にして崩れてしまう。
 広間の向こうを歩いている、彼の姿を見つけたからだ。

(クラウス様、今日も素敵……!)

 長身に、濃紺の騎士服が憎らしいほど似あっている。
 鍛えられた身体は遠目にもわかるほど逞しく、端整な横顔には相変わらず愛想というものがない。

 彼の名前はクラウス・フラウト。
 フラウト伯爵家の次男で、若干二十五歳にして既に王国騎士団の近衛師団長の座にいる。
 そして、ビクトリアがこの世で最も愛している男である。

「クラウス様!」

 ビクトリアは努めて上品に、けれど最大限に早足で彼に近づき、声をかける。
 振り返ったクラウスは、ビクトリアを見ても表情ひとつ変えない。
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