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紳士探偵とアメリカンドッグ
■紳士探偵とアメリカンドッグ
45階のスカイラウンジは名をincidenceと書いてあった。意味は“光りの反射”。
そうっと顔を覗かせると店内は女性が好みそうなピンクの照明を少し薄暗くトーンダウンしてある。だがちっともいやらしい感じはしない。店に入るとすぐに硝子の壁が広がっていた。その硝子の上から水が流れている。照明を当ててあるので、水がきらきら反射していた。
身なりのしっかりとしたウエイターがすぐに私たちに気づき「二名様で?」と笑顔で出迎えてくれる。
「あ、はい。あの……できるだけ目立たない席に…」と言っても九条がどこにいるのか分からない。ガラスの壁からちょっと顔を覗かせると、水の壁の脇にあるカウンター席に九条とさっき見た美人が並んで座っていた。
そのカウンターの中では同じように清潔そうな黒のロングエプロンをまとった男性がシェイカーを振っている。その奥の棚には数え切れないほどの酒の瓶が並んでいた。ボックス席も数席ある。上質な生地のソファのような椅子に硝子のテーブル。やはり上層階級の客が多く、ほとんどがきちんとした身なりをしていた。その中でやはり九条とその女性はひと際輝いて見える程目立って見えた。
「あ、あっちの奥の席へ」と私は空いているボックス席を指さし、ウェイターに案内されながらも顔を見られないようこそこそと移動。
何―――やってんだか。
これじゃ私が後ろめたいことをしてるみたいじゃないか。
「お飲み物は」と席についてそつなく聞いてきたウェイターに「じゃぁシャンディガフを」と口早に言うと陸ちゃんも慌てて「じゃぁ僕も同じものを」と付け加える。
九条はいつもとあまり変わらない服装で黒いセットアップスーツに白いシャツと言ういでたちだった。女性の方も同じような黒いパンツスーツ。それがまたビシリと決まっていて、いかにもデキそうなキャリアウーマンを思わせる。
二人はこの街のネオンが星屑のように輝いている夜景には目もくれず、それぞれの飲み物を飲みながら少しばかり真剣な顔をしてやり取りをしていて女性の方が何かをテーブルに滑らせた。九条がそれを手に取り真剣な表情でそれを見ている。
な、何見てるの?
気になって、思わず身を乗り出すと運悪くちょうどシャンディガフを運んできたウェイターが来たところで、意図していなかったことで私たちは派手に衝突した。
ガシャン!とグラスが割れる音が床に響き緩やかに流れるBGMを少しばかり、遮った。
わ、わわ!
慌てて屈んだが、時すでに遅し。
この音に九条が振り返り、バッチリ目が合ってしまった。
「仁科―――?」