尊い推しに溺愛されてます!?

第一章

入学式の日。
 私は、人生でいちばん最悪で、いちばん尊い出来事に遭遇した。

 桜が舞う校門前。女子たちの黄色い歓声。
 その中心にいたのは、誰もが知る人気アイドルで、同時に今いちばん話題の高校生俳優でもある、一条レンだった。

 テレビの中で見るより、ずっとかっこいい。
 いや、かっこいいなんて言葉じゃ足りない。尊い。無理。しんどい。

「今日からこの学校に通います。一条レンです。よろしくお願いします」

 そう言って微笑んだだけで、周りの空気がふわっと甘くなる。
 息をのむって、こういうことなんだと思った。

 私は人混みの後ろで、ひっそり両手を握る。

 レンくんだ。ほんものの、レンくんだ。

 実は私、白石みうには誰にも言っていない秘密がある。
 それは、一条レンを中学一年の頃から推し続けている、ガチの古参ファンだということ。

 ライブ映像は全部チェック。雑誌の切り抜きも保管済み。出演ドラマの名シーンは暗記レベル。
 しんどい時はレンくんの笑顔で生きてきた。

 でも、そんな推しがまさか同じ学校に来るなんて聞いてない。

「やばい……心臓もたない……」

 小さくつぶやいた、その時だった。

「何がやばいの?」

「ひゃっ!?」

 背後から低く甘い声がして、私は飛び上がった。
 振り向いた先にいたのは。

「え……」

 一条レン本人だった。

 至近距離。無理。近い。顔がいい。
 しかも、じっとこっちを見ている。

「今、俺のこと見てたよね」

「み、見てないです!」

「見てたでしょ」

「……ちょっとだけ」 「ふふ」

 笑った。
 推しが。
 私に向かって。
 終わった。尊すぎて終わった。

「おもしろいね、君」

「お、おもしろくないです……!」

「名前は?」

「し、白石みうです……」

「みう」

 名前を呼ばれただけで、体温が一気に上がった。

「覚えた」

 その一言が、なぜだか胸に残った。
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