結婚秒読みのアラサー女子、助けたカメに告られる。
次の行に目をやり、私は「あ」と声を上げた。
「……35.優しくてカッコイイ彼氏をつくる」
私は思わず隣を見て、「すごい、叶っちゃった」と言った。
リアムも楽しげに目を細め、「ではこの番号に印を付けましょう」と言った。
それで私はオレンジのカラーペンで、100の番号が振られたリストの叶った項目には◯を、もう叶えなくて良い項目には訂正線を引いて消した。
作業を終えると、リストはあと70項目になった。
「わぁ、全然まだ、叶えていない夢があった……」
私が軽い感嘆を覚えてつぶやくと、リアムが「そうですね」と答えた。
「じゃあ、残りの人生をかけて、これらの夢を叶えないと」
「……叶うかな」
「叶わなくても、叶える努力をしたことは無駄になりません」
「……そっか」
そう、彼の言うとおりだ。本当はこんなにたくさんやりたいことがあるのに、最近の私は惰性で日々を過ごし、それが正しい生き方なんだと信じていた。英会話の勉強もやっていないし、ペン字のテキストも放置したまま。ヨガマットもクローゼットに入れっぱなし、海外旅行なんてもう何年も行っていない。
先週の週末はどう過ごした? 土曜の昼過ぎに起きて洗濯と掃除して、愛美と夜飲んで、日曜は……、気がついたら終わっていた気がする。先々週の土曜は裕貴とデートして、どこに婚約指輪を買いにいくか決めて……。やっぱり日曜は昼まで寝て、洗濯して、あとは……、何したっけ?
おそらくここ何年かの私は、こんな記憶にも残らない週末をずっと繰り返してきた。とりあえず会社で頑張ってるし、休みの日くらい自分を甘やかさないとって、そう言い訳して、本当は違う景色が見たいはずなのに、そんな願望なんて持ってませんと自分をごまかして、生きていた。
二日前の夜。
もし、部屋のチャイムが鳴らなければ。
もし、リアムが私を訪ねてこなければ。
きっと今日の私も、先週と同じように貴重な時間を無為に過ごしていただろう。
「……リアム」
「はい」
「私、ロンドンに行こうかな」
驚いた顔の恋人を見つめ、私は笑顔で言った。
「じつはね、貯金だけはマメにしていて、留学費用は自分で出せるんだ。でももしあなたと一緒に住んで、あなたがいろいろ助けてくれたら、きっと何の不安もなく勉強に専念できる気がするんだ」
「ナギサ……」
「とりあえず会社に退職願を出して、今から準備して間に合うかわからないけれど、通う大学を決めて願書を出して。来年の秋、ロンドンの大学院に通えるようになったらいいなって思う。来年が無理でも、また再来年挑戦する」
「はい」
私の言葉に、リアムはとても嬉しそうに微笑んだ。
「もちろん、全面的にあなたを応援します。僕ができることなら何でもします」
「まずは英会話かな。身近にこんないい先生がいるんだもん。これから毎日ビデオ通話で私の先生をしてくれる?」
「はい、もちろんです」
私よりも喜びを露わにして、リアムはぎゅうと私を抱きしめた。
そして彼は、いきなり英語で言った。
『……ナギサ。七年前、あなたは僕の世界を広げてくれました。あなたのおかげで今の僕があります。だから今度は、僕があなたの世界を広げてあげたい。そして美しく羽ばたくあなたの隣で、ずっとあなたを見守っていたい』
「ちょ、今なんて言ったの? 流暢すぎて聞き取れなかったんだけど!」
私が文句を言うと、リアムは私の大好きな顔でいたずらっぽく笑い、言った。
「一年後にまた同じ台詞を言います。その時はきっと全部の意味がわかりますよ」
一年後。
彼はちゃんと約束を果たした。
今度は私も全部聞き取れた。
きっとこの誓いは永遠に守られるだろう。
―― 私は今、とても幸せだ。
FIN


