チョコより甘い光〜バレンタインチョコの行方〜

January 25

January 25

バレンタインなんていうイベントは、もう自分には関係ないと思っていた。

けれど、今年は違う。

本命がいる。

本命チョコを渡す相手がいる。

――ただし、その相手は、院内で王子と噂される藤崎理久だ。

美月は大学病院の10A病棟で働く看護師。理久は同じ病院の外科医で、二人は婚約している。ただし、その関係はまだ院内ではほとんど知られていない。

院内のチョコ文化は、新人の頃から何度も見てきた。

義理チョコ文化がまだ少し残っている病院内は、毎年この時期になるとどこか浮つく。

勤務表を見ながら、美月は小さくため息をついた。

(なんで日勤なんだろう……失敗した)

もちろん、そんなイベントを理由に勤務希望を出すわけがない。

だから日勤になるのは、仕方がない話なのだけれど。

「今月、綾瀬さんと深夜勤ですね。よろしくお願いします」

昼休憩中。

新しく出た二月の勤務表を見ながら、同僚たちが盛り上がっている。

「あ、本当だね。よろしくね。落ち着いてるといいよね」

「綾瀬さんが一緒なら、心強いです」

可愛いことを言ってくれる。

深夜勤は、組むメンバーによって緊張の度合いが大きく変わる。

優秀な後輩と一緒なのは、こちらとしても頼もしい。

けれど今月、美月がどうしても気になってしまうのは、深夜勤務のメンバーよりも二月十四日のことだった。


あの、やたらキラキラしたエセ王子の理久は、チョコをもらったりするのだろうか。


科も違うため、顔を合わせる機会は多くない。

内科の先生たちにチョコを渡す同僚がいるのは知っている。

ならば、外科も同じような空気になるに違いない。

高級チョコレートなんて、昔から山ほどもらっていそうだ。

今さら喜ぶとも思えない。

(……手作り……んー……自信ないな)

同じ家に住んでいるのに、手作りしていたら簡単にばれる。

かといって、変に期待されるのも困る。

改めて勤務表を見ると、バレンタインまで五連続日勤だった。


神様の意地悪か。


いや、これは主任がシフトを作っているので、主任による悪意のない采配だ。

「ねぇ、バレンタインの前日、日勤終わったあとにレンタルキッチン借りてチョコ作らない?」

一つ上の先輩が切り出すと、後輩たちがすっかり乗り気になった。

手作りチョコを渡す相手がいるのだろうか。

それとも友チョコか。

普段の美月なら、そういう話にはあまり便乗しない。

けれど今置かれている状況から考えると、その誘いはかなり甘い誘惑だった。

「綾瀬はどうする? ……って、綾瀬はあまり興味ないだろうけど」

「行きます」

先輩の言葉を遮るように、思わず即答していた。

周囲が一瞬固まる。

その反応を見て、美月はハッとした。

「あ……」

「うん。綾瀬が参加するなんて珍しい。彼氏でもできた?」

「いえ、今年のバレンタインは日勤なので」

「綾瀬、ここ五連勤なんだね……ドンマイ」

「はい。今年はチョコの力で乗り越えます」

美月は昔から、バレンタインには無縁そうな人間だと思われている。

けれどそのおかげで、特に怪しまれることはなかった。
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