チョコより甘い光〜バレンタインチョコの行方〜
「……それは」

ふっ、と理久が笑った。

その笑みに、一瞬だけ許してもらえたのかと思う。


「聞き方を変えようか」


甘い声とは裏腹に、顎に触れた指は離れない。

「美月は、誰のために、何を作っていたのかな?」

やはり、許してもらったわけではなかったらしい。

「……理久のために、トリュフを……作りました」

真正面から視線を受け止めきれず、美月は目を逸らした。

頬が熱い。

「そう」

理久の指が、顎からゆっくりと動く。

人差し指の先が、美月の唇にそっと触れた。

息が止まった。

「それで――」

理久の視線が、美月の目から唇へ落ちる。

ほんの一瞬だった。

「綾瀬さんは、やっぱり誰のことが好きだった……のかな?」

意地悪な質問だった。

あえて噂の言葉を使い、美月のことを「綾瀬さん」と呼ぶ。

まるで、くだらない噂を美月自身の言葉で上書きさせようとしているようだった。

美月の目が泳ぐ。

「……及川?」

「ち、違います」

「じゃあ、誰?」

この美しい王子は、どうしても本人の口から言わせたいらしい。

一歩も引く気のない、ずるい笑顔を浮かべている。

美月は観念して、その名前を口にした。

「理久……」

「理久のことが?」

名前だけでは、許してくれない。

「……好きです」

「誰が?」

「……私が」

「誰を?」

美月は思わず理久を睨んだ。


絶対にわかっている。

わかっていて、言わせようとしている。


理久は、綺麗に微笑んだままだ。

「理久のことが……好きです」

ようやく口にすると、理久の目元がわずかに緩んだ。

「うん」

たったそれだけ。

それなのに、満足したのがわかる。

顎に添えられていた手が離れ、ふっと距離が戻った。

美月は、知らないうちに身体を強張らせていたらしい。

一気に力が抜ける。


「それで?」

理久は何事もなかったような顔で、美月を見る。

「俺のために作ってくれたチョコは、どこにあるの?」

「私の部屋にあります」

「それはぜひ受け取りたいな」

「……はい。取ってきます」

美月は足早に自室へ向かった。
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