チョコより甘い光〜バレンタインチョコの行方〜
理久は何も言わず、美月を見る。

その表情からは、相変わらず何を考えているのか読めない。

「美月は、誰かにチョコを渡したの?」

核心を突く質問をしてきたのは、理久の方だった。

明らかに知っている話を、あえて聞いてくる。

そういうところが、いやらしい。

「渡してません」

事実だけを答える。

理久の目が、わずかに細くなった。

「10Aの看護師たちから、とある話を聞いたんだけど?」

「……」

「及川に渡すために、幸せそうに作っていたって聞いた」

「……前半部分は捏造かと」

「捏造?」

理久が、わずかに首を傾げる。

「美月が及川の名前を出したって聞いたけど?」

「誤解です」

「誤解? ……事実じゃなくて?」

美月は言葉に詰まった。


完全に嘘だとは言えない。

けれど、それが本当だとも言いたくない。


「事実……ですが、真実ではないです」

「真実ではない?」

「そうです。理久に作っていたけど、理久のために作っているなんて言えませんから」

顔が熱くなるのを感じながら、美月は反論した。

理久が静かに立ち上がった。

「それで、俺のためではなく、及川のためだと言ったの?」

「そ、そうです」

理久が、ゆっくりとこちらへ近づいてくる。

「そこに、どうして及川の名前が出てきたの?」

「咄嗟に思いついた名前だっただけです」

「咄嗟に、ね」

また一歩、距離が縮まる。

「はい。咄嗟にです」

「綾瀬さんは、やっぱり及川先生のことが好きだったんですね。そう噂になっているって聞いたよ」

美月は目を丸くした。

「誰がそんなことを!」

「心外、とでも言いたい顔だね」

「もちろん心外です。そんな根も葉もない噂を……」

そこまで言ったところで、理久が目の前まで来た。


近い。


美月がわずかに顔を上げると、理久の右手が伸びてきた。

指先が顎に触れ、そっと上を向かされる。



「根も葉もなかったの?」

低く落ちた声に、胸が跳ねた。

綺麗な顔が、すぐ目の前にある。

いつもの穏やかな微笑。

けれど、目だけは笑っていない。

美月は目を逸らせなくなった。
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