【短編】散った灯り
最悪
「お母さん早く早く!」
「少し待ちなさい、ここ結ばないとだから…んもう!じっとしなさい!」
白地に藍色の朝顔が映える浴衣を着つけてもらう朱里は、何度も背伸びするように足を小刻みに上下させる。
多少イライラしながらも、なんとか母親が着付け終えると、朱里はすぐに巾着を持って玄関へ向かった。
「遅くなるときは連絡しなさいね」
「はーい!」
カラコロと下駄を鳴らして歩く音は、まるで朱里の気持ちを表しているようだ。
スマホをとって画面を見るが、通知は入っていない。
朱里は、夏休み前に、憧れのサッカー部の先輩と夏祭りに行く約束をしていた。
『先輩、待ち合わせ場所にいますね』と送信すると、スマホで口元に宛て、ニヤニヤと笑ってしまうのを隠す。
しかし、待てども返信もなければ既読も付かない。
次第に辺りは暗くなり、提灯の灯りがキラキラと輝いてくる。
そして、人通りも多くなるが、楽しそうに話しながら朱里の前を通り過ぎていくだけ。
緩んでいた気持ちは徐々に不安が募り、再度スマホを手に取った。
「ごめん、西野だよな?」
「………え…っと…?」
「サッカー部の今井奏。隣のクラスで…その、大野先輩の代理で来た」
「帰る」
すぐに奏に背を向けると、来た道を帰ろうとする朱里。
悲しい気持ちと悔しい気持ちで、今にも泣き出しそうだった。
奏は慌てて引き留める。
「ご、ごめん!!俺が大野先輩に無理矢理頼んだんだよ!」
「知らない人と花火見たくないし、無理」
ふり返れば睨むように奏を見る朱里は、ふつふつと怒りが湧いてきた。
この目の前にいる奏にも、何も言わずに彼を送ってよこした大野先輩にも。
ぐううぅ…
人通りのにぎやかさに負けないお腹の音が、朱里から聞こえてくる。
後ろ頭をかいた奏は、少し気まずそうに提案した。
「おごるから、なんか…食べない?」
「…たこ焼き」
「うん」
「りんご飴、焼きそば、綿菓子、かき氷、イカ焼きも食べたい」
再びカラコロと音を鳴らして歩き出した朱里に、奏は財布を確認しながら慌てて追いかける。
ようやく目当てのたこ焼き屋で買ってもらうと、さっそく食べ始めた。
モグモグと食べる朱里に、奏は話を切り出すタイミングをうかがうしかない。
「…あの、さ…」
「次は~、あ!かき氷、ブルーハワイがいい」
話す隙も与えない朱里は、カキ氷の文字が書かれた露店を指さす。
それを察したのか、奏は朱里にその場で待っててもらい、カキ氷を買いに行った。
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