【短編】散った灯り
約束
さっそく袋から線香花火を取り出すと、一本朱里に渡す。
「線香花火がなくなるまでに、多く火を落とさなかった方の勝ち。負けたら勝った方の約束を聞く」
「線香花火で勝負って…スポーツマンってみんな勝負好きなの?」
受け取った朱里は奏と同時に、線香花火に火をつけた。
ジジジジジ…パチ…パチパチ…パチチ…
隣の会場では、大きな打ち上げ音と花火が夜空を照らす一方で、朱里たちの花火は、自分たちの手元を照らしていた。
先に落ちたのは奏で、その数秒後に朱里の火種が落ちる。
奏はため息交じりに、もう一本渡すと、また同時に火をつけた。
辺りからは、打ちあがる花火への歓声が上がるが、朱里たちの間は沈黙だ。
また二人の火種が落ち、また火をつける。
「そういえば、今井くんが勝ったら何の約束するの?」
「…西野は?」
質問に質問で返された朱里は、ムッとした表情になる。
しかし、手元が揺れてしまったため、火種が落ちてしまった。
気づけば、もう残り二回分の本数しかない。
朱里は、奏の質問に答えた。
「そうだなー、とりあえず大野先輩に謝らせるために呼び出してもらって、二人に何かしらお詫びをしてもらおうかな」
「今日のおごりじゃ、やっぱダメか」
「うん」
苦笑いする奏の火種はまだまだ落ちない。
「今日はごめん。すげぇ楽しみにしてたのに…」
「…もういいよ。いろいろ買わせちゃったし…大野先輩も悪いし…」
ポトリ、と奏の火種が落ちた。
分けて置いていた、勝った本数と負けた本数を見ると、同点だ。
次の火種で決着がつく。
しかし、奏の方の内容を聞いていないので、朱里はチラリと見た。
「今井くんのお願いってなに?」
ジジ…パチパチ……パチ…
「次の試合、応援に来てほしい。で、俺のことだけ応援してほしい」
「え…」
パチチ……
線香花火の灯りでほんのり見える奏の表情は、穏やかだがどこか照れくさそうだった。
ふいに見ていた朱里と目が合う。
「あ」
二人同時に声を出したときには、決着がついた。
今もなお、会場からは打ち上げ花火が上がり続ける音が聞こえる。
二人はしっかりと土で火元を消して、後片付けを始めた。
「近くまで送ってくよ」
「…ありがと」
奏は、持ってきていた袋に線香花火のゴミを入れ、手に持った。
また人ごみに戻ると、人をかき分けながら帰路に向かう。
「あ、大野先輩にはちゃんと言っておく」
「…うん…」
歩きながら伝える奏に、朱里は言った。
「…約束、守るから…!」
「おう」
ふり返った奏の後ろに、大きな花火が打ちあがる。
照らされた彼の表情は、とても嬉しそうで、満面の笑顔だった。
私は、来月の天気が晴れることに、ほんの少し期待してしまった。
