ラッセルの丘で
どのくらい経ったのかさっぱりわからない。目を覚ましたとき、ブランケットを掛けられて私はベッドに寝かされていた。見れば、すぐ隣に憧くんが座ってスケッチブック片手に忙しく鉛筆を動かしている。すでにきちんと着替えて、さっきとは違うTシャツを着ている。
「あれ……憧くん?」
「あ、起きたか。よかった……」
スケッチブックを置いて身をかがめ、私の髪に触れてくる憧くんは珍しく心配そうな顔をしていた。
「気絶してるみたいだから、びっくりした。息はちゃんとしてたから、まあ平気だろ、とは思ったけど……」
「いま何時?」
「もうすぐ9時半になるとこ」
「うそー、もうそんな時間?」
慌てて起き上がろうとすると、さりげなく両肩を押さえ付けられて、ちゅっとキスされる。
「まだいいいだろ、帰りはちゃんと送ってくからさ」
「ん……」
視界の端にスケッチブックが入ってきて、思わず手を伸ばす。特に焦るでも隠そうとするでもなく、いたって涼しい顔で憧くんはこう言った。
「寝顔がかわいいから、描いとこうかと思って」
「気絶してる裸の女をスケッチするとか……どうなの、それ?」
「身体は描いてないよ、さすがに。やばいだろ、それは」
あはは、と可笑しそうに笑って「どう、まだ途中だけどけっこういいだろ?」なんて言ってくる。
絵が好きだ、とは言っていたけれど、こんなにさらっと人の顔まで描いてしまうとは、ちょっと驚きだった。鉛筆だけのラフなスケッチとはいえ、ちゃんと私の顔だとわかるし、なかなか上手だ。とはいえ、あまり見られたくない無防備な寝顔なのが恥ずかしい。
「……これ、どうするつもり?」
「完成させて、とっておく」
「私にくれないの?」
「描いた絵は手元に置いとくことにしてる。唯一のまともな趣味だし」
ま、ここまでできたら、あとはモデルがいなくても記憶でいけるな、と独り言ちて、スケッチブックを閉じる。
「シャワー、浴びたら?」
「ん。そのあと、旅行の予定、立てよ?」
「オッケ。美術館、リストアップしとく。それ以外で行きたいとこ、シャワーしながら考えといて」
起き上がろうとして、見事に素っ裸なのを今さら思い出す。ちらりとチェストを窺うと、憧くんがいつも学校に持ってきている肩掛け鞄が目に入る。金具のところには、見慣れたクマのマスコット。ほっぺのところがほんのり赤くなっていて、意味もなく恥ずかしくなってくる。
「これ、使って」
ちゃんと畳んである大き目のバスタオルの間に、さっき脱がされたワンピースの裾がちらっと見えている。
「ブラジャーとかもろもろは、中に包んどいた」
「……ありがと」
バスタオルを身体に巻き付けてベッドを出ようとすると、ふと引き寄せられた。優しく抱きしめて、耳元で小さく囁いてくる。優依、好きだよ、と。
「ん……私も、好き」
あれこれ考えずにさらっと口にする。腕が緩み、絡んだ視線もまた嬉しそうに緩むのを見て、これでよかったんだ、とほっとする。
部屋を出て、階段を半分まで下りた中二階にあるバスルームへ。シャワーを浴びながら、ちょっとだけ誠二くんのことを思い出した。
ちゃんと好きかどうか、定かではない私たち。
でも――今はこれでいい。今は、まだ。
「あれ……憧くん?」
「あ、起きたか。よかった……」
スケッチブックを置いて身をかがめ、私の髪に触れてくる憧くんは珍しく心配そうな顔をしていた。
「気絶してるみたいだから、びっくりした。息はちゃんとしてたから、まあ平気だろ、とは思ったけど……」
「いま何時?」
「もうすぐ9時半になるとこ」
「うそー、もうそんな時間?」
慌てて起き上がろうとすると、さりげなく両肩を押さえ付けられて、ちゅっとキスされる。
「まだいいいだろ、帰りはちゃんと送ってくからさ」
「ん……」
視界の端にスケッチブックが入ってきて、思わず手を伸ばす。特に焦るでも隠そうとするでもなく、いたって涼しい顔で憧くんはこう言った。
「寝顔がかわいいから、描いとこうかと思って」
「気絶してる裸の女をスケッチするとか……どうなの、それ?」
「身体は描いてないよ、さすがに。やばいだろ、それは」
あはは、と可笑しそうに笑って「どう、まだ途中だけどけっこういいだろ?」なんて言ってくる。
絵が好きだ、とは言っていたけれど、こんなにさらっと人の顔まで描いてしまうとは、ちょっと驚きだった。鉛筆だけのラフなスケッチとはいえ、ちゃんと私の顔だとわかるし、なかなか上手だ。とはいえ、あまり見られたくない無防備な寝顔なのが恥ずかしい。
「……これ、どうするつもり?」
「完成させて、とっておく」
「私にくれないの?」
「描いた絵は手元に置いとくことにしてる。唯一のまともな趣味だし」
ま、ここまでできたら、あとはモデルがいなくても記憶でいけるな、と独り言ちて、スケッチブックを閉じる。
「シャワー、浴びたら?」
「ん。そのあと、旅行の予定、立てよ?」
「オッケ。美術館、リストアップしとく。それ以外で行きたいとこ、シャワーしながら考えといて」
起き上がろうとして、見事に素っ裸なのを今さら思い出す。ちらりとチェストを窺うと、憧くんがいつも学校に持ってきている肩掛け鞄が目に入る。金具のところには、見慣れたクマのマスコット。ほっぺのところがほんのり赤くなっていて、意味もなく恥ずかしくなってくる。
「これ、使って」
ちゃんと畳んである大き目のバスタオルの間に、さっき脱がされたワンピースの裾がちらっと見えている。
「ブラジャーとかもろもろは、中に包んどいた」
「……ありがと」
バスタオルを身体に巻き付けてベッドを出ようとすると、ふと引き寄せられた。優しく抱きしめて、耳元で小さく囁いてくる。優依、好きだよ、と。
「ん……私も、好き」
あれこれ考えずにさらっと口にする。腕が緩み、絡んだ視線もまた嬉しそうに緩むのを見て、これでよかったんだ、とほっとする。
部屋を出て、階段を半分まで下りた中二階にあるバスルームへ。シャワーを浴びながら、ちょっとだけ誠二くんのことを思い出した。
ちゃんと好きかどうか、定かではない私たち。
でも――今はこれでいい。今は、まだ。