ラッセルの丘で
 優依は、自分の見た目の良さを最大限に活用して様々な場面で得をしていた。英語を使っても嫌がらない相手に対しては、流暢な英語で丁寧にコミュニケーションをとろうと努め、あっという間に仲良くなってしまう。特に、相手が男性だと初めから優依にはたいてい親切で、いろいろサービスしてくれたり、耳寄りな情報を教えてくれたりと、旅が快適になることも多々で本当に助かった。
 旅行中も相変わらずワンピースやスカートのスタイルを貫き、いかにも「女の子」という格好が恐ろしいほど似合っていた。写真を撮ってほしいとお願いした相手からは、ほぼ毎回「すごくかわいい彼女だね」なんてオレが言われてしまうのだが、まあ、悪い気はしなかった。
 一日中二人で過ごしていても、イライラしたりムカついたり、というのは一切なかった。わりと気分屋で短気なオレにしては、相当珍しいことだ。
 優依は清々しいくらい率直で気持ちがいいし、何かあればすぐに直接伝えてくれるから、すごく楽だ。ちゃんと自己主張しつつオレのわがままも聞いてくれるし、そういうところはやっぱり年上らしい包容力なのかもしれない。
 おまけに「一緒に旅する相手として、憧くんはかなり当たりだよ」なんて言ってくれもした。
 カフェで休憩しているときだったか。オレの鞄についているクマのマスコット――優依はなぜかこのクマがずいぶんと気に入っていた――を手でいじっていた。
「旅行の醍醐味って食事だけどね、おいしいものにばかり当たるとは限らないでしょ」
「まあ、そうだな」
「うっかりまずいもの引き当てたときにさ、微妙な空気になって白けちゃうと、もう気まずいじゃない? その点、憧くんは『まっず! なんだこれ!?』って笑いにできちゃうでしょ? あー、よかった、って思うもの」
「相手によりけりなんだな、そのへんは……なんでも人のせいにする女、いるだろ? そういうまずいものに遭遇したときなんかもさ、『だからこの店やめればよかったのに』とか言ってくる女。じゃ、早く言えよ、とか腹立って、もう口もききたくなくなるわ。そんなのと旅行したら、最悪通り越して地獄だな」
「最終決定は一緒にしてるわけだから、そんなの、どっちか一方のせいなわけ、ないのにね」
 優依はくくく、と可笑しそうに笑った。
「ま、今ので、そういう面倒くさい女と憧くんがデートしたことあるんだな、ってちゃんと伝わってきたよ」
「……よくあんだろ、友達の紹介で『とりあえず会ってみない? 彼氏欲しいって子がいるんだけど』とか。あーいうので、ロクな女にあたったことないんだよな。『可愛い子なの』ってのも、全然あてになんないしな。女同士の可愛いって、嘘ばっかだし」
 正直に言ってみると「なるほどね」と優依は頷いた。
「性格悪いと思われるから絶対言わないけどさ、そもそも、恋人を誰かに紹介してもらおう、っての、どうなんだろうね? まともに学生生活送ってたら、出会いなんて、あちこちにあるでしょ」
「ま、共学ならな、普通そうだな。でもお前、女子大だろ? どうやって出会うんだよ? あ、やっぱ合コンとかそういうのか?」
 そうそう、そもそもこいつはどこからどう見ても『勝ち組』だ。
「ん-、合コンは好きじゃない。それこそ、面倒くさいから。だいたいタイプでもなんでもない男に絡まれて、体(てい)よく断るのも手間なんだよね」
「ま、お前はそうだろうよ……どこ行ってもモテてたオーラが出まくってるからな」
「憧くんだって、わりとそうでしょ?」
「ん-。どうかな。国際文化学科って、周りに女子が多い環境ではあるけどな。1年ですぐこっち来たから、まだなんとも……」
 当然、ほったらかしてきた彼女のことをちらりと考えてしまう。おそらく、優依も『待ってなければいいなと思っている彼氏』のことを多少なりとも考えているのだろう。妙な沈黙が下りて、おそるおそる顔を見合わせ、どちらからともなく曖昧に微笑んでしまった。
「お互い、すねに傷持つ身、ってとこだね」
「……おそろいってことか?」
「そうそう。仲良くしようね、憧くん」
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