ラッセルの丘で
しばらく手をつないだまま黙って歩いていると、優依がぽつりと訊いてきた。
「……冗談だよね?」
「何が?」
「さっきの」
「冗談の方がいいってことか?」
優依は居心地悪そうにオレを見て、小さくため息を吐いた。
「そうは言ってない。でも、さすがに……」
「じゃ、好き、ならいいのか? 愛してる、は重いから?」
なんだろう、さっきぶわっとニコに対して膨らんだ苛立ちが、今度は優依に向きかけている。
「憧くん、どうしたの? なんだか、らしくない」
「……そうかもな」
そうだ、オレ自身が一番驚いていた。ああいう真似がとっさにできてしまった自分に、半ば呆れてもいる。
「お前はどうなんだよ?」
「どうって?」
「オレのこと、どう思ってるわけ?」
直球で尋ねたのは初めてかもしれない。
そもそも、お互いにすごく気になってはいたし、気に入ってもいた。初めからちゃんとわかっていたし、今もわかっている。
そして、始まりはどうあれ、どんどん惹きつけられてハマっていく自分を諦めているというよりは、どこかで許してしまっている。
そして優依も――同じ気持ちだといい、といつの間にか願うようになっていた。
「……好きだよ」
優依ははっきりそう言って、オレの目を見た。
「好きじゃなきゃ……あんなに楽しく旅行、できないでしょ」
「……そうだな。オレも、すごく楽しかったんだ」
「そっか。なら、よかった」
優依は心なしかほっとしたように見えた。
「楽しかったの、私だけかな、ってちらっと思ってたから、安心した」
「そんなわけないだろ」
美術館巡りも、街歩きも、いろんな話をしたことも。美味しいものを食べたことも、まずいものにびっくりして大笑いしたことも。全部が本当に、本当に楽しかった。
「一日中誰かと一緒にいて、イライラしたりが皆無だったのって、まあ、オレ的には珍しかったんだ。楽しかったのはもちろん、一緒にいてすごく心地よかった、っていうか」
正直に言っただけなのに、優依はなぜか嬉しそうに目を細めた。
「憧くんさ、ホテルでいっぱいえっちして、それで大満足だっただけなのかな、って実は思ってたよ、私」
「……あのさ、オレ、どんだけクズなんだよ、それ」
「あはは……だって、最終日の朝なんて、まるでケモノのような勢いだったし。朝から何回したっけ?」
「3回? ってか、そりゃ、部屋で二人きり、ってのは、やっぱチャンスだから最大限に活用したい、というか……こっち戻ったら、そんな機会もそうそうないだろうな、と」
優依はふっ、と可笑しそうに笑った。
「ところが、幸か不幸か、来月からはあっさり二人きりになれちゃう場所ができるね……いいのかな、これ」
「オレは、嬉しいよ。お前は?」
「……嬉しいけど、ちょっと怖いな」
「どうして?」
しばし考えるようなそぶりを見せてから、優依は小さな声で言った。
「どんどん好きになりそうだから」
「……いいだろ、好きになれば。オレもきっと、もっともっと好きになるよ、お前のこと」
無責任なことを言っている、とちゃんとわかっていたけれど、あえてオレは続けた。
「あとでいいよ、考えるのは。なるようにしか、ならない」
てっきり、理詰めでツッコんでくるかと思ったが、意外にも優依はあっさりうなずいた。
「そうだね」
「……優依」
「なあに?」
ちょうど、図書館の辺りまで来ていた。優依の手を引き、大きな木の陰にそっと誘った。
見た目は極上で、実は相当やばい女。恋人には絶対できない女。
最初の印象がどんどん変わっていって、知れば知るほど、優依という女の複雑さがたまらなく魅力的に思えてくる。
激しさや身勝手さと同居するしごく真摯で怜悧な一面に、オレはどうしようもなく惹かれている。
「好きだよ、優依」
真っ昼間だけれど、通りからは見えないからいいや、と思ってぎゅっと優依を抱きしめた。あっさり腕の中におさまった優依も、ひどく穏やかにこう言った。
「憧くん、私も、好きだよ」
「……冗談だよね?」
「何が?」
「さっきの」
「冗談の方がいいってことか?」
優依は居心地悪そうにオレを見て、小さくため息を吐いた。
「そうは言ってない。でも、さすがに……」
「じゃ、好き、ならいいのか? 愛してる、は重いから?」
なんだろう、さっきぶわっとニコに対して膨らんだ苛立ちが、今度は優依に向きかけている。
「憧くん、どうしたの? なんだか、らしくない」
「……そうかもな」
そうだ、オレ自身が一番驚いていた。ああいう真似がとっさにできてしまった自分に、半ば呆れてもいる。
「お前はどうなんだよ?」
「どうって?」
「オレのこと、どう思ってるわけ?」
直球で尋ねたのは初めてかもしれない。
そもそも、お互いにすごく気になってはいたし、気に入ってもいた。初めからちゃんとわかっていたし、今もわかっている。
そして、始まりはどうあれ、どんどん惹きつけられてハマっていく自分を諦めているというよりは、どこかで許してしまっている。
そして優依も――同じ気持ちだといい、といつの間にか願うようになっていた。
「……好きだよ」
優依ははっきりそう言って、オレの目を見た。
「好きじゃなきゃ……あんなに楽しく旅行、できないでしょ」
「……そうだな。オレも、すごく楽しかったんだ」
「そっか。なら、よかった」
優依は心なしかほっとしたように見えた。
「楽しかったの、私だけかな、ってちらっと思ってたから、安心した」
「そんなわけないだろ」
美術館巡りも、街歩きも、いろんな話をしたことも。美味しいものを食べたことも、まずいものにびっくりして大笑いしたことも。全部が本当に、本当に楽しかった。
「一日中誰かと一緒にいて、イライラしたりが皆無だったのって、まあ、オレ的には珍しかったんだ。楽しかったのはもちろん、一緒にいてすごく心地よかった、っていうか」
正直に言っただけなのに、優依はなぜか嬉しそうに目を細めた。
「憧くんさ、ホテルでいっぱいえっちして、それで大満足だっただけなのかな、って実は思ってたよ、私」
「……あのさ、オレ、どんだけクズなんだよ、それ」
「あはは……だって、最終日の朝なんて、まるでケモノのような勢いだったし。朝から何回したっけ?」
「3回? ってか、そりゃ、部屋で二人きり、ってのは、やっぱチャンスだから最大限に活用したい、というか……こっち戻ったら、そんな機会もそうそうないだろうな、と」
優依はふっ、と可笑しそうに笑った。
「ところが、幸か不幸か、来月からはあっさり二人きりになれちゃう場所ができるね……いいのかな、これ」
「オレは、嬉しいよ。お前は?」
「……嬉しいけど、ちょっと怖いな」
「どうして?」
しばし考えるようなそぶりを見せてから、優依は小さな声で言った。
「どんどん好きになりそうだから」
「……いいだろ、好きになれば。オレもきっと、もっともっと好きになるよ、お前のこと」
無責任なことを言っている、とちゃんとわかっていたけれど、あえてオレは続けた。
「あとでいいよ、考えるのは。なるようにしか、ならない」
てっきり、理詰めでツッコんでくるかと思ったが、意外にも優依はあっさりうなずいた。
「そうだね」
「……優依」
「なあに?」
ちょうど、図書館の辺りまで来ていた。優依の手を引き、大きな木の陰にそっと誘った。
見た目は極上で、実は相当やばい女。恋人には絶対できない女。
最初の印象がどんどん変わっていって、知れば知るほど、優依という女の複雑さがたまらなく魅力的に思えてくる。
激しさや身勝手さと同居するしごく真摯で怜悧な一面に、オレはどうしようもなく惹かれている。
「好きだよ、優依」
真っ昼間だけれど、通りからは見えないからいいや、と思ってぎゅっと優依を抱きしめた。あっさり腕の中におさまった優依も、ひどく穏やかにこう言った。
「憧くん、私も、好きだよ」
