待ってください長谷川くん!
残業

9話

「どうやったら知れる?センパイのそのお人好しな考え」

「長谷川く」


振り返って見上げれば、口元の黒子に視線が向くが、見下ろしてくる誠の目を見た。


「お人好しで」

「長谷」

「男運も男への免疫もないくせに」

「ちょ…っ!」

「仕事はできて、他の人よりも何倍も仕事をこなす」


誠は、香織にどんどん顔を近づけていく。
香織の顔は真っ赤になり、まとめていた資料に手が当たってしまうと、辺りに散らばった。


「なのに…普通に笑って他を庇う。センパイの考え、意味わかんない」

「ま、待ってください…長谷川くん…!」


じっと見つめてくる誠の表情は、とても真っ直ぐだったが、すぐにニヤッと笑った。


「…なんてね。センパイほんと、まともな恋愛してこなかったの?顔、真っ赤じゃん」

「〜っ、か…関係ないでしょ!?」

「ははっ。それは正論。でも、面白いね、センパイ」


パッと香織から離れると、散らばった資料を拾い集める誠。
ふと、立ったままの香織の膝が、震えているのに気づくと、クスッと笑った。

集めた資料を集め終えると、ゆっくりと立ち上がり、香織の髪に触れた。


「……初(うぶ)で可愛いね、センパイ」

「〜っ!か、からかわないでよ…!」

「はいはーい。これ以上すると、センパイが腰抜かしちゃうね〜」


香織に背を向けるが、顔だけ振り返ると舌をベッと出して笑う。


「とりあえず、早くそれ持ってきてよ」

「…え…」

「その量、ひとりでやってたら終電になっちゃうんじゃないですかー?」


資料を持ってデスクに戻る誠に続いて、残りの資料を持った香織は、赤い顔のまま自分のデスクに着いた。

オフィス内は、ホチキスのパチンと留める音と紙のカサカサという音だけが響く。
書類をまとめていた香織は、チラッと誠を見た。

少なくなった書類をまとめながら、口を開く香織。


「あの…すみません…。社長のご子息に…こんなサービス残業…」

「サビ残の自覚あるなら、次から断ってくれる?無駄な時間じゃん」

「……ほんと、みんなといるときと、全然違いますねっ」

「所詮はただの人付き合い。愛想振り撒いてた方が、円滑に進むし、僕社長の息子だからさー。笑ってた方がめんどくさくないわけ」


誠の言葉に、動かしていた香織の手が止まった。
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