王子様になりたい ~王子様の恋愛指南~

第12話

 その後も、慎司さんと二人で様々な場所を巡った。
 アンティーク調の雑貨店からキャラクターショップ。
 本屋では、慎司さんは雑貨のほかにも本が好きらしく、お互いにおすすめの本を紹介し合った。普段は仕事の話ばかりしているからだろうか。好きな作家の話をする慎司さんは、いつもより生き生きとしているように思えた。
 一通り店を巡った後は、話題のカフェでゆったりとした時間を過ごした。
 山田市のショッピングモールへ訪れたことは何度もある。
 しかし、今日ほど充実した日はないだろう。
 ——楽しい時間は、あっという間。
 日曜日の二十時。閉店を知らせる寂しげな音楽とともに、続々とモール内の店舗が閉店していく。
 明日は月曜日。仕事のことを考えれば、そろそろ帰るべき時間だ。
 すでに他の人も出口へと向かっている。
「そろそろ、駅へ向かおうか」
 周りに合わせて、慎司さんが歩き出す。
 彼と繋いだ手を離さないまま私もついていくべきだろう。
 だけど——この時間を終わらせたくない。
 そんな欲が出てしまえば、なかなか動き出せなくなる。
「……明花、どうしたのかな」 
 気づけば、彼の手を強く握っていた。
 広い館内から人の姿が消えていくのを眺めていれば、まるでここにいるのは私たちだけのような錯覚にまで陥った。
 早く出ていくべきだと、頭ではわかっている。
 しかし、身体は正直だった。
「あの……。わがままをひとついいですか」
 こんなわがままを言ってはダメだ。彼を困らせてしまう。
 それでも気持ちが抑えられず、苦しくなる。
「いいよ。どんなことでも言ってごらん」
 私のことを全て受け止めてくれるような言葉に、ますます心が揺らいでしまう。
 優しい声色に絆されてしまえば、もう耐えられない。
 大きく息を吐き、慎司さんをゆっくりと見上げた。
「……一緒に、観覧車へ乗りませんか」
 ——まだ、傍にいさせてくれませんか。
 本当のわがままは、「観覧車」という口実に隠してしまう。
 震えた声で訊ねれば、彼は「もちろん」と返してくれた。

 従業員の指示に従い、揺れるゴンドラに足を踏み入れる。
 乗るまでの間、バランスを崩さないように慎司さんが手を離さないでいてくれた。
 私が無事に乗り込んだことを確認した従業員が、観覧車のドアを閉める。
 ガタンと重たい鍵が下ろされると……世界が遮断された。
「わがままを叶えてくれて、ありがとうございます」
 正面に座っている慎司さんに、感謝を込めて頭を下げる。
「私も、明花と乗りたかったから。気にしないで」
 そっと顔を上げれば、温かい眼差し。
 緩んだ目元は、甘さを孕んでいて——まるで、本当の恋人みたいだ。
「ねえ、明花」
 慎司さんは身を乗り出し、組んだ両手の上に顎を乗せた。少しだけ、お互いの距離が近くなる。
「私の最後のわがままを言わせて」
「慎司さん……」
 月明かりが淡く差し込んでいる。窓から見える夜景は、キラキラと宝石のように輝いていた。
「——また、デートしてほしいな」
 そのわがままを言われてしまったら、もう欲が抑えきれなくなった。
 胸に何かがこみあげてくる感覚に支配される。
「一日だけ、じゃなくてもいいのですか」
「あぁ。一日だけなんて、私が耐えられない」
「まだ、私に恋愛を教えていただけるのですか」
「「まだ」ではなく「ずっと」教えてあげたいな」
 楽しい時間は、あっという間。
 ——だけど、もう少しだけ延長させてください。
「よろしくお願いします」
 ずっと待ち望んでいた言葉に、目頭が熱くなる。
 ガラスに反射したイルミネーションが、私たちを華やかに彩った。
 一日だけ、ではない。
 この人と過ごす時間を、もっと知りたい。
 そんな気持ちが、私の胸の奥で溢れていた。
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