王子様になりたい ~王子様の恋愛指南~

第13話

 月曜日の正午。
 そろそろランチの時間だ。キリのいい所でデータ処理を切り上げる。
「藤島ちゃん、今日は一緒に食事してもらうわよ!」
 私がパソコンを閉じるタイミングに合わせて、加藤先輩が声をかけてくれた。
 心なしか、普段より何倍も声にハリがある。どこにいても、彼女の声が届きそうだ。
「ぜひ、ご一緒させてください」
「よし、じゃあ行くよ!」
 目を輝かせながら、加藤先輩がカフェへと向かっていく。
 ……なぜか、その足取りがいつもより軽い気がする。
 それを不思議に思いつつ、私もお弁当箱を片手に加藤先輩へついていくのだった。

「——ついに、あの王子様と付き合ったんだってね!おめでとう!」
 椅子に座った瞬間、加藤先輩の高らかな声がお昼どきの社内カフェに響いた。
 その盛大な勘違いに……周囲にいた社員たちが一斉にこちらを振り向いた。
「あの、王子様が……」
「ついに、同期の藤島さんと……」
「付き合った……」
 一人が口を開けば、どんどんと広がっていく噂の声。
 突然の出来事に血の気が引いた。
 加藤先輩が感情表現が豊かな人だということは知っていた。
 だけど、こんな形で発揮されてしまうとは!
「あの、違うんです。違うんです」
「ん、何が違うのよ。昨日デートしているところを見てるんだから、私。藤島ちゃんも、もっと自信持ちなさいって!」
 満面の笑みを浮かべる加藤先輩が、私の肩を軽く叩いてくる。
 私の震えた声では、盛大な勘違いを止めることはできなかった。
「デート、していたんだ……」
「おめでとう、王子様……」
 昨日のデートを見られていた。
 たった一日のデートで、誤解が生まれてしまった。
 私が一番危惧していたことだ。つま先の震えが止まらない。
「藤島ちゃん、齋藤くんのことずっと憧れていた存在だって言っていたじゃない」
「確かに、そうですけど」
 私は、王子様に憧れていた。
 だけど、それは仕事する姿勢の話だ。恋愛関係になりたいわけではなかった。
 ……なかったのに。
「なら、よかったじゃない」
 大勢からの祝福に、圧倒されてしまう。
 早く誤解を解かないと、慎司さんに迷惑がかかってしまう。
 なのに、心の奥底で別の声がする。
 ——本当に、否定してしまっていいの?
 ——誤解された方が、私にとって都合が良いじゃない。
 抑えきれない慎司さんへの気持ち。
 二つの相反する心が私を掻き乱し、上手く呼吸ができなくなる。じんわりと涙まで滲んできた。
 だけど、ここで曖昧なままにしてはいけない。
 本当のことを言わなくては。
「あの、私たちは付き合って——」
「——そうなんです。私たちは付き合っているんですよ」
 ざわついた空気に切り込んだ柔らかな声。
 目の前に現れたのは、齋藤慎司。
 噂の張本人だった。
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