恋のメンテナンスは必要ですか?
 *


「はい。起こしますね。お口濯(ゆす)いでください」

 今日のメンテナンスを一通り終えて、翔の座るチェアを起こす。
 翔は言われた通りに口を濯いだ。

「翔さん、全く問題ないですね。他の医院に通われてたんですか?」

 翔の口腔内はとても綺麗で手入れも行き届いていた。
 虫歯もなく、手入れされていたのがよく分かる。

「はい、小さい頃から通っている院があって。そこでお願いしてました。」
「……いいんですか?うちに来てしまって」
「ああ、話してあるから大丈夫です。知り合いの歯科なので」

 翔はにこやかに笑い「気にしないで」と彩を見つめた。
 相変わらず綺麗な顔に彩は目が合わせられなくて逃げるように視線を予約用のタブレットへとそらす。
 自分の感情を誤魔化すために「つ、次のメンテナンスなんですが」と話を続けた。

「いつもは二ヶ月でお願いしてるんですが、とても丁寧に手入れされてるので三ヶ月でも——」
「二ヶ月でお願いします。」
「ふふ、即答ですね」
 
「……彩さんに会いたいので」

 
 その言葉に思わず固まる。

 (それって——)
 
 彩はタブレットを見つめていた顔をゆっくりとあげて翔を見つめた。
 二人の視線が重なる。

 
「どういう……意味ですか?」
「……貴女が想像している、そのままの意味です」


 心臓が速くなる。

 体の外にまで伝わりそうなほど、大きく高鳴り。
 胸の奥がキュンッと掴まれた——
 ……けれど。


 ——『彩は俺がずぅーっと守ってあげるからね?』——
 
 頭の中に流れる過去の記憶にハッとした。
 
 意識を戻し、動揺から視線を彷徨わせる。
 昔の嫌な記憶がフラッシュバックして彩の心臓を炙った。

 
 (……ダメ。)

 簡単に信用しては。
 また同じことを繰り返すかもしれない。
 

 心の中で必死に自分へ言い聞かせた。
 胸の高鳴りなんて聞かなかったことにして話を戻す。
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