恋のメンテナンスは必要ですか?
「に、二ヶ月で取っておきますね。今日と同じくらいの時間でいいですか?」
「……はい」
「じゃあそれで……」
(これでいい)
患者と歯科衛生士。
それ以上でもそれ以下でもない関係でいれば——。
「今日。夜空いてますか。」
不意に、囁かれる言葉。
彩の考えとは反対に、心臓は鼓動を強める。
「……もうお酒は」
「お酒はなしで。一緒に食事を……どうですか?」
「私は……」
ダメ。断ろう。と言葉を呟く準備をした。
でも翔は彩の考えていることをわかっていたように言葉を紡ぐ。
「……信用して、なんて言わない。彩さんの経験していたことを考えたらそんなことは言えないから。」
「ただ……今すぐに信用することはできなくても、少しずつでいいから俺を知ってほしい。」
翔の言葉は彩の決意を揺らす。
「俺は彩さんの嫌がることは絶対しない。貴女を傷つけたり、縛ったりもしない。」
少しの間の後、翔は願うような真剣な眼差しで彩に言った。
「俺に、チャンスをくれないか」
翔の瞳は彩だけを見つめていた。
その視線にどう返していいのか困る。
この人のことを気にしていないと言ったら嘘になる。
でも……。
「……私なんて、翔さんに不釣り合いだと思います。翔さんの思う以上に私はただの一般人ですよ」
彩は自嘲気味に笑う。
度重なる恋愛に疲れていた。
何度今回こそは、と思っただろうか。
何度『この人なら大丈夫』と希望を持っただろう。
その度に期待は打ち砕かれて。
期待することにも、チャレンジすることにも疲れていた。
彩の言葉に翔は視線を下げた。
これで諦めただろうと彩は見送りの支度を始める。
「二か月後、予約しておきました。また——」
「今日は帰ります。でも、また誘いますね」
「え……でも」
「一回断られたくらいで諦める程度の想いなら最初から誘っていないよ」
翔はその綺麗な顔で微笑み、受付の方へと去っていく。
どうしたらいいのかわからず、彩は「はぁ……」とため息をついた。