恋のメンテナンスは必要ですか?
 *


 マンションを飛び出し、四つのリングが銀色に輝く愛車へ乗り込み、走り出す。
 
 翔は苛立ちを隠せない。
 こんなにもイライラするものなのかと自分でも驚いていた。
 

 昨日の夜。
 彩さんから電話がかかってきた。
 風呂上がり、知らない番号に疑問を抱きながら出ると可愛らしい声が聞こえ、驚いた。

 
 ——「もしもし?」
 
『あ……こんばんは。葉山です……』
 スマホから聞こえてくる声は緊張しているのか震えていた。

「彩さん?!あっちょっと待って……うぁっ!」

 片手で持っていた化粧水を床に落として蓋が飛ぶ。
 焦って拾い、電話に集中した。

 余計なことを言ったせいで通話を切られそうになったが、ギリギリ止めることができた。
 彩からのランチの誘い、翔は嬉しさに口元をにやけさせた。
 話を終えて、自分からそろそろ寝ようと提案したのにまだ声を聞きたくなってしまう。
 若い頃に戻った気分だ。
 いや、若い時でもこんな気持ちになったことはないのに。

 
 どうしても話を続けたくて「……明日、起きたらメッセージを送ってもいいかな?」なんて悪あがきを言った。断られるだろうと思いながら言ったのに彼女は『じゃあ私も、起きたら送りますね』と快諾してくれた。
 
 彼女は知らないだろう。
 
 あの後、俺が洗面台の前で崩れ落ちながら嬉しさに顔を赤く染めていたことを。


 そんな良い日の次の朝、父親からかかってきた電話の内容に俺は言葉を失った。

 ——『彩さんが家の前でストーカーに待ち伏せされているらしい』

「……は?」
 衝撃に顔を凍らせた。
 次第に表情は失せ、そこに残っていたのは冷気の漂うような鋭い瞳。
 沸々と怒りが湧き上がってきて体に力が入る。

 電話を切り、すぐに彩へ電話した。
 今すぐにでも駆けつけたい気持ちを抑え、彩の気持ちを聞くためにコールを鳴らす。
 思っていたよりもかなり早くコールは止んだ。
 
 スピーカーから彩の掠れ声が聞こえてきて、察する。

「……彩さん?」

 泣くことを堪えるような声。
 彼女を苦しめる男に苛立ち、奥歯を鳴らす。
 男が彩さんに何をしてきたのか想像するだけで虫唾が走る。

 車のハンドルを握る力が自然と強くなった。
 皮膚と牛皮が擦れてギュッと摩擦音を鳴らす。

「……っ」
 静かに激しく荒立つ怒りを抑えながら、翔は彩の元へと急ぐ。
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