恋のメンテナンスは必要ですか?
第二十五話 「普通の恋」
マンションの入り口前に近づくと人影が見えた。
街灯に照らされる道、目を凝らしてその人物を見つめると相手がこっちに気づいて駆け寄った。
本を片手に抱え、彼はにこやかに微笑む。
「彩。おかえり」
「翔さん?なんでここに……」
翔は照れくさそうに目をそらしながら「帰るって連絡をくれた時に下のロビーで読書しながら待ってたんだ。」と話す。
まさか待ってくれているとは思っていなかった彩は驚きながらも嬉しそうにはにかむ。
「ありがとうございます。寒くなかったですか?」
「中のロビーにいたからね。全然大丈夫だったよ。コンシェルジュがブランケットも用意してくれて——」
二人で話しながらマンションへ入る。
エレベーターで最上階まで上がり、玄関へ入ると中からいい香りが漂ってきた。
「なんかいい匂いしますね」
「ああ、えっと、実は今日ご飯を作ったんだけどタイミングが悪かったね」
「えっ?!あっだから迎えに……」
「そう、でも気にしないで。俺が勝手にやったことだから」
翔は「明日明後日は俺仕事でいないし、クリスマス当日も忙しいから勝手に用意しただけで。良かったら明日食べて」とは言ってくれたがなんだか申し訳なくて気まずい。
扉を開けてダイニングを見つめるとそこには二人分の豪華なフレンチ料理とワインボトルが置かれていた。
一人分は手をつけたのかその形跡が見える。
「あ……」
「ごめん、食べてたものを置いたまま——」
翔は焦って料理を片付けようとするが彩がその手にしがみつく。
「あの……今から少し食べてもいいですか?」
「え?あ、もちろん。でも、彩はもう夜ご飯を」
「えっと、その、色々あってあんまりお腹に入らなかったから今、お腹すいちゃって!」
樹に告白された後、彩は食事が喉を通らなくなってしまった。
緊張なのか隣に樹が座っていると落ち着かなくなってしまって。
それでも本当はそれなりに食べていたのだけれど。
お腹を空かせたように、彩はダイニングテーブルに座り食事につく。
美味しそうに前菜を頬張る姿は密かに翔の口角を上げた。