恋のメンテナンスは必要ですか?

 彩のグラスへ「料理に合うんだ」と、用意したワインを注ぎ、席につく翔。


「今日は楽しかった?」

 翔からの質問に彩はフォークを持つ手を止め、一瞬固まる。
 男友達だと思っていた同僚からの告白を思い出し、瞼を素早く瞬かせるがすぐに誤魔化すように作り笑いを浮かべた。

「はい。楽しかったです。」
「……それはよかった」
「同僚は……大学からの友人で、元彼のことも知っていたのでこの前の事件のことも話しました。」

「そっか」

「そしたら……もしよかったら一緒に住むかって誘われて、職場も一緒だからって」
「…………」

 二人の間に沈黙が流れる。
 言わなくてもよかったのに、なぜか口からこぼれ落ちてしまった。
 気まずさから、グラスに入ったワインをそっと口に運び、飲む。
 
 下に落としていた目を上に上げると翔と——目が合った。
 
「あ……えっと」

「彩は……その同僚のところに行きたい?」
「…………」

 言葉が出ない。
 行きたくないとか、樹が嫌だとかじゃない。
 告白されて気まずいというのもあるけど、それ以上に。

 目の前で不安そうに自分を見つめてくるこの人と、
 まだ一緒にいたいと思っている自分がいた。

 彩は迷う。
 そう思っているからってなかなか言葉として発するのには勇気が必要で。
 どう、伝えようか……悩む。

「私は、お邪魔でなければここに……居たいです」

 願うように翔に話すと彼は安心したのか嬉しそうで。

「……うん。好きなだけ居て」

 その笑顔に高鳴る。
 
 ああ、自分が嫌になりそう。
 まだ出会ってそんなに一ヶ月も経っていない。
 なのに……翔はどんどん彩の中に染み込んでいく。


(次は普通の恋がしたいって……)

 
 一般歯科衛生士とソムリエで御曹司。

 こんなの分不相応なカップリングありえない。


(わかってるのに)

 
 彩は自分の気持ちを誤魔化す。
 これは感謝の気持ちからくるんだ、恩人に対する感情だと言い訳を並べても、彼女の鼓動は素直にドキドキと高鳴っていた。
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