『冥府の門番は今日も忙しい!――聞いてないぞ! 死神が仕事放棄とか!――』
俺は大きく息を吐いた。
「……終わった?」
木魂おじさんも、その場へ座り込む。
「終わった」
「何分?」
『一時間三十一分』
咲良が答える。
二時間の期限まで、二十九分。
「間に合った……」
さすがに全身から力が抜ける。
木魂おじさんは、そのまま床へ寝転がった。
「疲れた」
「俺も」
「軍釟」
「何」
「もう帰っていい?」
俺は木魂おじさんを見る。
「おじさんはまだ終わってねぇぞ」
「何で」
「システム」
木魂おじさんが固まる。
「……今日から?」
「今日から」
「明日じゃ駄目?」
「駄目」
「何で」
「俺が欲しいから」
「横暴」
「魂識別、流量監視、異常検知、自動振り分け。全部」
木魂おじさんが顔をしかめる。
「多い」
「おじさんなら出来る」
「褒めても無理」
「やれ」
「酷い」
その時、咲良の声が正式な通信として全域へ流れた。
『今回の一連の事案を受け、冥府庁では魂管理システムの新規開発を開始します。開発責任者は冥府庁官房長官・木魂様。魂の識別、経路監視、異常検知、各部門への自動振り分けを含む統合管理体制を構築します』
木魂おじさんが固まる。
「……決定?」
「決定」
『決定です』
咲良まで追い打ちをかける。
俺は疲れ切った身体のまま笑った。
「よかったな、おじさん。仕事増えたぞ」
「軍釟もだよ」
「何で」
『異世界転生部門、現場監修担当』
咲良の声。
俺は止まった。
「……は?」
『最初に装置欲しいって言い出したの、軍釟でしょう?』
「誰から聞いた!」
『古衣留』
「古衣留ぅぅぅ!」
遠くから通信が入る。
『軍釟さーん! 便利なの作ってくださーい!』
「お前も手伝えぇぇぇ!」
木魂おじさんが笑う。
「軍釟、今日も忙しいね」
俺はゆっくりそいつを見る。
「誰のせいだよ!」
怒鳴った瞬間、少し離れた場所から神楽の穏やかな笑い声が心へ響いた。
『お疲れさま、軍釟』
「……神楽」
『でも、よかったね』
「何が」
『昨日欲しがってた装置、作ってもらえる』
俺は黙った。
確かに。
確かにそうだけど。
こんな大騒ぎの末に欲しかったわけじゃない。
「……もっと普通に作ってほしかった」
『それは無理じゃない?』
「何で」
『だって軍釟だから』
「どういう意味だよ!」
答えは返ってこなかった。
ただ、神楽が笑っている気配だけが残っている。
俺はそのまま仰向けになり、ようやく静かになった冥府の空を見上げた。
昨日まで、俺はただの門番だと思っていた。
それが今では異世界転生部門長で、冥府庁の危機には何故か全体指揮を取らされ、世界の境界まで修復し、そのうえ新しい魂管理システムの現場監修まで押しつけられようとしている。
どう考えても、仕事が増えている。
しかも、俺が望んだ形とはだいぶ違う。
「……門番って、こんなに忙しかったか?」
誰に聞くでもなく呟く。
すると隣で木魂おじさんが笑った。
「部門長だからじゃない?」
俺は即座に起き上がった。
「昨日知ったばっかりなんだよ、その肩書き!」
どうやら冥府庁の平穏は戻っても、俺の平穏が戻ってくる予定は――まだ当分ないらしい。
「……終わった?」
木魂おじさんも、その場へ座り込む。
「終わった」
「何分?」
『一時間三十一分』
咲良が答える。
二時間の期限まで、二十九分。
「間に合った……」
さすがに全身から力が抜ける。
木魂おじさんは、そのまま床へ寝転がった。
「疲れた」
「俺も」
「軍釟」
「何」
「もう帰っていい?」
俺は木魂おじさんを見る。
「おじさんはまだ終わってねぇぞ」
「何で」
「システム」
木魂おじさんが固まる。
「……今日から?」
「今日から」
「明日じゃ駄目?」
「駄目」
「何で」
「俺が欲しいから」
「横暴」
「魂識別、流量監視、異常検知、自動振り分け。全部」
木魂おじさんが顔をしかめる。
「多い」
「おじさんなら出来る」
「褒めても無理」
「やれ」
「酷い」
その時、咲良の声が正式な通信として全域へ流れた。
『今回の一連の事案を受け、冥府庁では魂管理システムの新規開発を開始します。開発責任者は冥府庁官房長官・木魂様。魂の識別、経路監視、異常検知、各部門への自動振り分けを含む統合管理体制を構築します』
木魂おじさんが固まる。
「……決定?」
「決定」
『決定です』
咲良まで追い打ちをかける。
俺は疲れ切った身体のまま笑った。
「よかったな、おじさん。仕事増えたぞ」
「軍釟もだよ」
「何で」
『異世界転生部門、現場監修担当』
咲良の声。
俺は止まった。
「……は?」
『最初に装置欲しいって言い出したの、軍釟でしょう?』
「誰から聞いた!」
『古衣留』
「古衣留ぅぅぅ!」
遠くから通信が入る。
『軍釟さーん! 便利なの作ってくださーい!』
「お前も手伝えぇぇぇ!」
木魂おじさんが笑う。
「軍釟、今日も忙しいね」
俺はゆっくりそいつを見る。
「誰のせいだよ!」
怒鳴った瞬間、少し離れた場所から神楽の穏やかな笑い声が心へ響いた。
『お疲れさま、軍釟』
「……神楽」
『でも、よかったね』
「何が」
『昨日欲しがってた装置、作ってもらえる』
俺は黙った。
確かに。
確かにそうだけど。
こんな大騒ぎの末に欲しかったわけじゃない。
「……もっと普通に作ってほしかった」
『それは無理じゃない?』
「何で」
『だって軍釟だから』
「どういう意味だよ!」
答えは返ってこなかった。
ただ、神楽が笑っている気配だけが残っている。
俺はそのまま仰向けになり、ようやく静かになった冥府の空を見上げた。
昨日まで、俺はただの門番だと思っていた。
それが今では異世界転生部門長で、冥府庁の危機には何故か全体指揮を取らされ、世界の境界まで修復し、そのうえ新しい魂管理システムの現場監修まで押しつけられようとしている。
どう考えても、仕事が増えている。
しかも、俺が望んだ形とはだいぶ違う。
「……門番って、こんなに忙しかったか?」
誰に聞くでもなく呟く。
すると隣で木魂おじさんが笑った。
「部門長だからじゃない?」
俺は即座に起き上がった。
「昨日知ったばっかりなんだよ、その肩書き!」
どうやら冥府庁の平穏は戻っても、俺の平穏が戻ってくる予定は――まだ当分ないらしい。

