『氷の王子は、地味子のパレットに溺れたい』
彼はスマホを見ながら、こちらへ歩いてくる。

「すみません」

「は、ひゃい!」

噛んだ。

消えたい。

如月くんの眉がわずかに動いた。

「……何その返事」

「す、すみません……!」

また謝った。

如月くんはそれ以上追及せず、スマホをこちらへ向けた。

「この本、ある?」

「ほ、本……?」

私は恐る恐る画面を見る。

そして。

時間が止まった。

『日本民俗色彩図譜』

(…………え?)

知っている。

当然だ。

だって昨日。

私が――ナナイロが。

『この本の青の使い方、本当に好き。作画資料として最高です!』

そう投稿したばかりだったから。

(いやいやいやいや)

偶然。

そう、偶然。

民俗学に興味がある男子高校生くらい、いる。

たぶん。

きっと。

全国レベルのバスケ部エースで、ビジネス書しか読まなさそうな如月くんが、突然マニアックな色彩図譜を読みたくなることだって――。
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