​『氷の王子様は、私の秘密を知っている』 〜学校一のイケメンの正体は、私の重度なトップオタク(R_K)でした〜

「……おい」
「…………」
「上白木」

初めて。
名前を呼ばれた。

なのに、ときめく余裕なんて一ミリもなかった。

「聞いてる?」
「ひゃ、あ、あ、あの……!」

喉が閉じる。
言葉が出ない。

どうしよう。
どうしようどうしようどうしよう。

この人がR_K。

毎晩、画面越しに話していた人。

私が落ち込んだ夜。
何度も感想を読み返した人。

会ったこともないのに、勝手に心の支えにしていた人。

それが。
ずっと隣の席にいた。

「……その本、は……っ」

声が震える。
如月くんが怪訝そうに目を細めた。

「何」
「い、いえ……!」

ダメ。
絶対ダメ。

知られてはいけない。
R_Kが如月くんだったことより。
もっと恐ろしいこと。

如月くんに、私がナナイロだと知られること。

それだけは。
絶対に。

「……変な奴」

如月くんは小さく息を吐いた。

そして自分で本を探すため、書架の奥へ歩いていく。

私は動けなかった。
胸の前でiPadを抱き締める。

ドクン。
ドクン。
ドクン。

心臓が痛い。

(どうしよう……)

知らなければよかった。


画面の向こうにいるから、何でも話せた。
顔が見えないから、安心できた。
R_Kは、私にとって安全な場所にいる人だった。


なのに。
ほんの数メートル先にいる。

同じ学校。
同じ学年。
同じクラス。
しかも――隣の席。

(絶対に、バレちゃダメ)

私は震える手で鞄を掴んだ。

急いでiPadをしまう。
ペンケースも。
充電器も。
全部。
早く。
如月くんが戻ってくる前に。

その焦りのせいだった。
カチャン。
小さな音。
ペンケースのジッパーから外れたアクリルキーホルダーが、カウンターの陰に落ちた。

けれど。
心臓の音しか聞こえていなかった私は、それに気づかなかった。

「……絶対、隠し通す」

小さく呟く。
私がナナイロだということだけは。

如月くんにだけは。
絶対に知られてはいけない。

そう決意した私の足元で。
七色の小さなアクリルキーホルダーが、夕日の光を受けて、ひっそりと輝いていた。


< 6 / 13 >

この作品をシェア

pagetop