『氷の王子様は、私の秘密を知っている』 〜学校一のイケメンの正体は、私の重度なトップオタク(R_K)でした〜
第2章 丸メガネの裏のナナイロ
期末試験一週間前。
部活動が全面禁止になった放課後の校舎は、不気味なくらい静かだった。
いつも聞こえるバスケットボールの音もない。
運動部の掛け声もない。
図書室には、西日の中を漂う細かな埃と、時計の秒針の音だけ。
(……あと少し)
私はiPadに向かってタッチペンを走らせていた。
今日の当番は私一人。
利用者も全員帰った。
締め切りは明日。
FANBOX限定公開用の新作は、九割ほど完成している。
夕暮れの教室。
窓辺に立つ少女。
茜色の空の下に、ほんの少しだけ青を残す。
寂しい。
でも、悲しいだけじゃない。
誰かを待っている色。
(……ここ、もう少し紫)
色を重ねる。
胸の中にあった曖昧な感情が、画面の中で形になっていく。
この瞬間が好き。
言葉なんて、いらない。
私は夢中でペンを走らせた。
だから。
カチャリ。
図書室の扉が開いた音にも気づかなかった。
足音が近づいてくる。
それにも。
気づかなかった。
「…………」
誰かが、カウンターの前で止まった。
それでも私は描き続ける。
そして。
「……おい」
「ひゃうっ!?」
飛び上がった。
タッチペンが手から落ちる。
顔を上げる。
そこに立っていた人を見た瞬間。
全身の血が凍った。
「き……如月、くん……?」