その青は沈む
 それから一週間が経って、彼が退院したという知らせが届いた。そこには妹からの提案があった。二人の家の近所にある少し大きな公園で、夏祭りが開かれるから、一緒にどうかということだった。

『これは、あいつも来るってことだよな』と思って、あの時の怒りを取り出した。けど、人目もあるし、言葉に気をつけないといけない。何より妹がいる場所で、険悪な雰囲気を見せたくない。

 だって、妹に悲しい顔はさせたくない。これから対策を考えて、彼がどう応えてもいいように、僕も色々と用意しようと思った。
 ロケの合間や撮影の休憩のときに、思いついたことを携帯のメモに書いた。彼は選択肢がかなり狭いし、いつも何か足りない。でも、相手は理解してるし、僕だけが理解してない。いや、僕は色々と見すぎてるのかもしれない。

 そして、ついにその日がやってきた。夕方になる前の、少し陽が傾いた頃だった。

 妹と彼が住む家の前で車を停めたら、彼が家から出てきた。僕が助手席の窓を開けたら、「駐車場空けてある、そこ使え」と言った。相変わらず、ぶっきらぼうだ。けど、何だか楽しそうに見えた。

 駐車場に車を停めて、運転席から降りたら、彼は僕の車を見て、「ふーん……。小回り良さそうだな」と言った。

「そうでもないよ。コツ掴むまで大変だし、駐車場に停めるときなんて、結構気を遣ってる」僕はそう言って、ポケットに車の鍵を仕舞った。

「確かに、傷一つなさそうだ」と彼は鼻で笑った。

「柚月は?」僕が聞いたら、「着替えてくるって、浴衣に」と彼は言った。それを聞いた僕は想像してニヤけた。絶対に可愛い。誰がなんと言おうが綺麗だ、と思って彼を見たら、少しニヤついていた。

『お前は想像するな』と圧を掛けたけど、彼は余裕の顔をして、左手で煙草を持って吸った。

 こいつはいつか絶対、砂に埋める。そうだ、暑い夏の海をバックに、砂浜に埋めるのが相応しい。

そう思っていたら、家の玄関が開いて、妹が出てきた。

「お待たせしました」妹はスキップするように、近づいてきて、彼の隣に並んだ。

 それは普通のことだけど、何より妹が可愛くて、綺麗で、何とも言えない気持ちになった。
 懐かしいようで、遠いような感覚だけど、すぐそばに確かにいる。

「柚月、簪取れそうだから、直そうか」僕が言うと、妹は「お願い」と明るく言ってから、後ろを向いた。そして簪を挿し直したら、彼が「お前、センスないな」と言って、「こうだろ」と簪を挿した。

「もう、どっちでもいいから。行きますよ。二人とも」と妹に軽く叱られた。けど、僕たちは前を歩く妹の後ろで、お互いちらちらと見ながら、笑っていた。
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