その青は沈む
 それから、お昼ご飯を食べて、また台本を手にしてから、台詞を頭に叩き込むように読んだ。最初はソファーに座っていたけど、繰り返すうちに席を立って、部屋の中を歩き始めた。抑揚をつけて言ってみたり、一拍置いて呟いてみたり、感情的になって足を踏み込んだときだった。

 テーブルの脚に爪先がぶつかって、その反動でテーブルの上から、携帯とストラップが床に落ちた。

『やっちまった』と思った。すぐに拾って、傷がないか確かめる。でも、どこにもなかったから、ほっとしたあとで、少し覗いてみようと目に当てた。

 覗いた先では、一瞬にして光の粒が溢れて、形や色を変えながら、瞬く間に花が咲いて輝いた。

 別の彩りを見せる中で、初めての出会いが蘇る。覗く度に妹の顔が浮かんで、煌めき続けた。

 昔見た空模様、雨の匂いや水音に紛れた景色。優しい風が火薬の匂いを運んできた。

 それほど遠くない場所で、大きな音と同時に、ぱらぱらと散るような音が聞こえた。顔を上げると、青の下に赤が滲んで、その下には雲のような白さが広がっていた。
 また、大きな音がして、それが散る前に、続けて大きな音が鳴っていた。どこかで花火大会をやってるみたいだけど、僕の部屋からは見えないようだ。仕方ないから、音だけ聞いて、また万華鏡を覗きながら、子どものように楽しんでいた。

 しばらく、そうしていたら、携帯が鳴って、確認もしないで出たら「お兄ちゃん?聞こえる?花火大会やってるみたい」と、とても楽しそうな妹の声が聞こえてきた。

「聞こえてるよ……」少し苦笑いしたけど、万華鏡を覗いたままだった。

 それは、どこか遠い空を割いて、大輪の花を描いたように広がる。

 きらきらと、光の粒が溢れて、弾けては瞬く。

 くるくると、輝きを増して、静かに落ちてく。

 同じ空の下、妹は誰を想っているのか。
 少しは昔のことも覚えていてくれるだろうか……。

 模様を合わせながら、零れて浮かび上がる輪郭。

 咲き誇る中に可愛らしくて、綺麗な笑顔が重なった。

「お兄ちゃん……、来年は絶対一緒に行こうね」妹は優しく柔らかな声で言った。

「じゃあ、約束だ。指切りは出来ないけど、覚えたからな」僕は気取って言った。

「殴ってもいいよ」と妹がからかうから、「だから、暴力はダメだ」と軽く叱った。

 そして、花火の音が止んで、妹が「じゃあ、また掛けるね」と言うから、僕も「次の休みにスタジオ行くって言っておいて」と伝えたら、「わかった、またね」と妹が先に切った。

 電話を切った後で、携帯を見てから、ケースを外して、脇にある小さな穴にストラップを通した。そして、ケースを戻して、携帯に付いたストラップを見て、決まった顔をしていた。
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