その青は沈む ②
 それから、子どもたちがそれぞれ独立して家を出たら、すぐに引っ越しが始まって、あっという間に家が取り壊された。そこから少し月日が経って、前より小さめの二世帯住宅が出来上がった。僕も引っ越しをして、住み慣れた頃に、スタジオをリフォームした。

 経営のことはまだ勉強中だけど、音楽については彼を頼りにしている。同じ個室の中はパステルブルーになって、あの椅子はなくなったけど、別の部屋で優輝くんが使っている。
 僕は未だにソファーに座って、テーブルの上で歌詞を書いている。その左側にドーナツ型の椅子が置かれていて、そこは彼の指定席だった。

 ときどき来て、椅子に座ったり、昔妹がいた場所に立ったりして、細かく口を挟んできた。けど、少しずつ間を空けていって、来ない日のほうが多くなった。

 そのことに僕が気づいたのは、暑い夏の日だった。

 仕事が終わってから、スーパーに寄って、大きなスイカを買って帰った。妹に預けて、部屋で着替えてから戻った。そしたら、チャイムが鳴って、優輝くんと結季ちゃんが入ってきた。その頃には夕食もできていて、リビングのテーブルの上に、五人分の食事が置かれた。

 見計らったように、彼が帰ってきて、食卓についたら、同時に「いただきます」と声が重なった。

 それぞれが食事をしながら、他愛のない話をして、誰もが笑っていた。食事を終えたら、彼が片付けて、妹がキッチンに立つ。優輝くんはテーブルを拭いて、結季ちゃんは妹の手伝いをしている。僕はそれを見たあとで、スイカを取り出して、妹に切って貰った。

 スイカをお皿に盛ったころには、皆が小さい縁側に並んでいて、そこに座ったら、とても窮屈だった。でも、居心地のよさは言葉に出来ない。そこには、昔僕が見ていた景色があったから。

 皆でスイカを食べて、優輝くんが種を飛ばしたら、結季ちゃんが軽く叩いた。それを妹が窘めて、彼は笑っていた。

 やっと辿り着いたような気がしたけど、またこういう日はやってくる。

 夏は縁側で涼んで、秋は落ち葉で焚き火をして、冬は皆で雪だるまを作る。

 そして、春になったら、飛ばした種が芽吹いて、皆が笑っている。

 僕はそのたびに、幸せだと心から思うだろう。

 それを僕は運命とは名付けない。

 だって、ただの偶然が重なっただけだから。

 もし、この先で、誰かに何かが起きても、後悔しないように、日々を重ねようと誓った。

ー完結。
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