稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

二十四話

 一方その頃、ローガンとシバは森の中を進み、そしてやっと到着するだろうという頃に、周囲の異変を感じ足を止めた。

「シバ、何だ?」

「ここを見て見ろ。ここから、まやかしの魔法が駆けられている。」

 ローガンは隠すようにつけられていた魔法のリボンを見て頷くと、それを越さないように気を付けながら森の中を、静かにゆっくりと進んで行く。そして、その場を迂回して山の険しい道を一度登り、上から、病気の始まりの地を見下ろした時、息を飲んだ。

「これは……どういうことだシバ」

 シバは顔色を悪くすると、意味が分からないと頭を振り、そして額に手を当てると呟くように言った。

「我が国はどうやら……竜の怒りを買ったらしい」

 上から見た村の近くの地形は大きく変わり、黒々とした竜の文様が大地を覆っていた。

「竜の怒り?」

 ローガンの言葉にシバは頷くと、深く息をついた。

「ドラゴニアの王は竜の血を引く竜人だ。そして王位を継ぐ者に最も力が強く継承される。それがあるからドラゴニアは王位継承でもめることはなかった。だが、百年ほど前に一度それが覆った事がある。弟が謀反を起こし、王を殺した。その時天は荒れ、竜の文様が地面を焼きつくしたという。その・・紋様が、あれだ」

「……つまり、王位継承者を誰かが害した。もしくは害そうとした、ということか?」

 シバはそれに無言でうなずくと、少し考えてからゆっくりと口を開いた。

「疑問に思う事があったのだ。病は広がり、発症する者が多くなる。悪化する者も多くなった。なのに……死者が出ていない。不可解だったが、そこに竜の介入があったとするならば」

 死者が出ていないということは初耳であり、ローガンはそんな事があり得るのだろうかと眉間にしわを寄せた。

「この病を治すには、竜の怒りを鎮めなければならないのかもしれない。死者が出ていないということは、王位継承者は生きているのだろう」

「つまり、その王位継承者を救えば竜の怒り、この病が収まると?」

「……そうう、考えられる」

 自分の国とは違ったドラゴニアの歴史。

 ローガンはこの世界には信じられないような現象があるのだと目の当たりにしながら、シバの言葉にうなずいた。

「ならば、探すしかないな」

「あぁ」

 その時であった。

 突然風を裂くような音が聞こえたかと思うと、弓矢が頬をかすめる。

「どういうことだ!?」

 皆剣を抜き、弓矢を剣で振り落していく。

 ローガンもシバから借りた剣で弓矢を落としたが、矢の数が多く、急いで引くしかない。

「一旦引く! 走れ!」

 シバの声に皆が一斉に森の中を駆ける。

 ローガンもシバの後に続き駆けていく。

 弓矢は次第に届かなくなり、かなりの距離を走った時であった。

「シバ!」

 シバの体がぐらりと傾き、崖下へと落ちそうになる。

 ローガンはその腕を掴んだものの、重さに自分事落下していく。

「っくそ!」

 どうにか崖に剣を刺し、シバの体を支えながら崖横に開く洞穴を見つけ、そこへシバの体を揺り動かして投げた。

 どさりとシバの体が転がり、ローガンもそこへ降りる。

「シバ! どうした!」

 大きな外傷はないのにもかかわらず、シバの顔色は悪くなっていく。

 そこで、ローガン自身もふらつき、頬に感じた熱を自身の指で撫でた。

「なん……だ……」

 黒い煙のようなものが指についているのを見たのを最後に、ローガンの意識は薄れていった。
 

 ダシャの母親は現ドラゴニア王国国王の七番目の側妃であり、ダシャを生んだのちに産後の肥立が悪くなくなってしまったという。

 黒目黒髪を持つダシャは王家からも毛嫌いされ、第何番王子という肩書すらも与えられず、静かに北の離宮にて年を重ねていた。

 ただ監禁されていると言うわけではなく、ダシャはそれなりに自由に、内密に下町に降りて遊んだこともあったそうだ。

 ダシャに与えられたのは、彼の世話をする平民の世話係の少年一人だった。

 ダシャよりも五つ年上の少年はディという名で優しい人だった。

 ダシャが王宮から遊びに出る度に小言は言うが、それでも一緒に着いて来てくれた。

 ただ、彼自身教養がある人ではなかったので、ダシャは読み書きが出来ず、ディとの会話でどうにか言葉を覚えた。

 ダシャは頭が良かった故に、たまに離宮に出入りする人々の会話から、自分は忌み嫌われているのだということ、黒が忌避する色だということ、自分が呪われた王子という名で呼ばれていることなどを知った。

 そして二か月前のある日、ディはダシャに慌てた様子で灰色のローブをかぶせると、腕を強く引き、静かに離宮の隠し通路からダシャを外に出した。

 最初こそ外に出られたことを喜んでいたダシャであったが、ディの様子に楽しい旅行と言うわけではないのだと悟った。

 そして、ダシャはディに何があったのか尋ねた。

「ディ。どうしたんだよ」

 明るい口調であえて尋ねたが、ディの顔色は変わらず、馬を調達すると二人でそれに乗ってひたすら道を走った。

「ディ?」

 途中で馬を捨て、森の中を歩きながら、それでも黙ったまま自分の手を引くディの優しい手。

 ダシャは静かに足を止めると、ディに言った。

「……俺一人で行く。ディは、別の方向に行け」

 ダシャは頭がよく、敏かった。

 故に、ディの様子から自分の今後の扱いが決まり、それが最悪の道となったのだろうということが想像できた。

「ダシャ様。我儘を言わないで下さい」

「俺の処遇が決まったのだろう? 我儘を言わせたくないなら、全て話せ」

 ディは顔を歪めると、泣きそうな顔で、ぽつり、ぽつりと話す。

「ダシャ様は呪われた王子だと……聖女がドラゴニアに現れないのは、ダシャ様のせいだと。だからダシャ様を……処刑せよと」

「だから俺を連れて逃げようとしたのか? ふふ……お前は優しいなぁ」

 笑い声を上げると、ディは悲しげな声をあげた。

「ダシャ様! 笑いごとではありません」

「うん。そうだ。笑い事じゃない。だから、ディ、俺のことは放っておいて、逃げろ」

「なっ……」

 ディは優しい人だ。

 ずっと一緒にいながらも、彼が自分を見張る為に傍にいることなど、理解していた。

 そしていずれ自分を殺すために、命令を待って居るのだということも、知っていた。

「俺はお前の事が一等大事なんだ。だから、頼む」

「……ダシャ様」

 その時であった。遠くから馬の走る音が聞こえはじめ、ディは慌てた様子で俺の手を引いて走り始めた。

「ディ! 手を離せ! 俺を置いて行け!」

「嫌です! 嫌です! 私はダシャ様にこの命を捧げると既に決めているのです!」

「ディ……」

 けれど結局は馬に追いつかれ、弓矢で射られる。

 剣で応戦するも、人数が多ければ二人で倒せる相手ではない。

 恐らくこの部隊を率いる隊長の男だろう。顔を覆面で隠し、声を上げた。

「呪われた王子を殺し、我が国に聖女をもたらすのだ!」

 大剣が振り下ろされ、あぁここで自分の人生は終わるのかと思った時であった。

 ディが自分を庇い覆いかぶさったのを感じた。

 ダメだと思った。

 これではディが死んでしまう。

 やめろと思った。

 その瞬間、自分の中から黒い何かが吹き出し、そして天が曇ったかと思うと雷鳴と共に大地が竜の文様へと染まっていった。

 襲ってきた男達は悲鳴を上げながら逃げていく。

 それを見て、一瞬助かったかと思った。

 だが、違った。

「ダシャ……さ……ま」

 大地は黒々としたもので覆われ、ディの体を飲みこんでいた。

 そして、ディの体が見る見るうちに痛々しいほどに赤く染まっていく。

「な……なんだ。これ……なんだ!?」

 自分の体は何ともないのに、ディの体だけが変わっていく。

「あぁ、やはり。貴方がそうだと思いました。我らがドラゴニアの新王。貴方こそが……真の王となる……方」

 ディの言葉の意味が分からずダシャは動揺する。

 とにかくディをこの地から引き離さなければならないと、引きずり、安全な場まで運んだ。

 それから身をひそめながら、ディの看病を続け、森の中で潜伏していたが、このままだとディは死ぬ。

 どうにかして助けなければと思った。そして、そんな時に、温かな光を見つけたのだ。

 奇跡だと思った。

 これほどまでに美しい光を纏った少女を見たことが無かった。

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