稀代の魔力を持つ転生令嬢、私は一人前であると声を大にして言いたい ~王家に拾われ国を救ったのは、ちびっこと見下されてきた私です~

二十五話

「そ……そんな。私そんなに光っているの?」

 私はダシャから話を聞いていたのだが、自分が発光していると言う話を聞いて自分の体をきょろきょろと見回した。

 ダシャはそれに小さくうなずいた。

「光っている。綺麗だなと……思う」

 私はそう褒められているのは分かっていても、何となく微妙な気持ちを抱いた。

 けれどダシャの真っ直ぐな瞳が可愛らしく思えて優しく頭を撫でた。

「ありがとう」

「あの……聖女様とはいえ、子ども扱いしないでほしい」

 そう言われ、私は苦笑を浮かべると言った。

「ごめんなさい。つい可愛くて」

 その言葉にダシャは顔を歪めた。

「黒目黒髪だぞ? しかも……呪われているのに」

 私はダシャの黒髪をわしゃわしゃと撫でながら言った。

「呪いねぇ。それは呪いじゃないわよ」

「え?」

「多分、祝福よ。貴方から出てきた黒い物というのも、きっと貴方を守ろうとしたのだと思う」

 私は記憶を辿りながら、ドラゴニア王国の歴史について思いだしていた。

 聖女時代に学んだことが、まさかここで役に立つとは。

 おそらく彼こそが時代の王となる存在なのだろう。

「貴方はおそらく誰よりも竜神に愛されている。だからきっと、竜神が貴方を守ろうとしたのね」

「で、でも病が……広がっているのだろう? 近くの村などを身に行った時、そうした話が聞こえた。おそらくこの病も、俺のせい」

「あぁ。そうね。たしかに貴方のせいだとも言える」

 私はにっこりとほほ笑むと言った。

「だから早く竜神様に、大丈夫だって、怒らないでって伝えないといけないわね」

「え?」

 私は立ち上がると、青年の息を確かめ、安定しているのを見るとダシャに伝える。

「この人を抱えるのは無理だから、まずは騎士団の所へと戻りましょう。大丈夫。私がちゃんと説明するから」

 にっこりとほほ笑み手を差し伸べるコレットに、ダシャは見惚れながら、小さく、うなずいた。


 頬がちりりと痛み、ローガンはハッと目を開いた。

 気が付けば辺りはすでに暗闇に包まれており、どのくらいの時間自分が意識を失っていたのかが分からない。

「……いって……」

 頬の痛みに眉を顰めていると、次第に暗闇に目が慣れ始める。

 今日が満月で良かったとその光を頼りにシバの容体を見ていくと、未だに苦しげにシバは呼吸を繰り返している。

 自分もシバも致命的な傷は追っていないはずなのにもかかわらず、一体何が起こったのだろうかとローガンは考えながらシバの体を見ていくと、腕に弓矢が掠った傷跡があった。そしてその部分が黒く色を変えていた。

「原因はこれか……けど、何故私はシバよりも回復が早い?」

 黒い部分を見て、恐らくはあの黒く染まった大地の土が弓矢に塗り込まれていたのではないかと考える。

 しかし一体誰が何のために自分達を攻撃したのか。

「いっ……」

 深く考えようとすると、頭が痛み、自分の体も全壊したわけではないのだなとローガンは深くため息をつく。

「コレットは一人で大丈夫だろうか」

 不意に残してきたコレットの事が気になり、ローガンは胸ポケットからコレットからもらった匂い袋を出すと、それを鼻に寄せ香りを嗅いだ。

「コレットの所に、早く戻らなければな」

 心配をかけてしまってはいけない。婚約者としてコレットを不安にさせないようにしたい。そう思った時であった。

「……ん?」

 先程まで痛んでいた頭も、頬も、痛みが嘘のように消えている。

 そんなことがあるわけがないと、自分は感覚がマヒしたのではないかと心配になり頬に触れると、ローガンは目を見張った。

「ない……傷が……消えている。」

 先程までは確かにあった傷が指で触れてみても、すでに繋がっており、痛みもない。

 手をぐーぱーと握っては開いてを繰り返しても、先ほどまで体の中にあった気だるさや、頭痛も消えているのだ。

 ローガンは突然の事に一体何が起こったのかと辺りを思わず見まわした。

 近くに聖女がいるわけもない。

 この洞穴に何かがあるのかとも考えたが、隣にいるシバには何の変化もないために、この場所が原因ではないだろうと思う。

 ならば、何が原因か。

 ローガンは視線を自分の手のひらの中にある匂い袋へと移した。

 甘い花の香りが、心を落ち着けてくれる。初めて婚約者からもらったプレゼント。

「まさか……」

 そんなわけがない。

 ただの匂い袋である。匂い袋に不思議な力があるわけでもあるまいしと頭を振り、そして動きを止めた。

 頭の中で、あの夜聞いた声と、コレットの声が、似ていることに気付く。

「何を……私は考えているんだ。そんなわけが……」

 確かめる方法が、今、自分の手の中にある。

 もしこの匂い袋に、不思議な力があるのであればシバで試せばいいのだ。

 シバの怪我が治れば、それはつまりこれを作ったコレット、もしくはこの匂い袋事態の薬草の成分によって不思議な現象が起こった事になる。

 コレットが聖女である可能性が、高くなる。

 心臓が、どくどくと脈打ち、汗が流れ落ちる。

「もしコレットが……聖女だったら」

 頭の中で様々な考えが浮かんでは消えていく。

 聖女だった場合、結婚はどうなる?

 出来るのか?

 第二王子の婚約者が聖女というのは、立場的に難しいのではないか。

 ならば聖女の力が薄れるまで待つか。いや、もしかしたら歴代最強の聖女と同等の力を持っているかもしれない。

 そうなればいつ聖女の力が弱まるかは分からない。

 頭の中で考えがぐるぐると渦巻、ローガンは額を抑えた。

 そしてそこでふと、ローガンは自分の気持ちに気付く。

「私は……コレットと……結婚したいのか」

 すとん、と、自分の感情の意味を知った。

 それと同時に、ローガンは一つの覚悟を決めるとシバの鼻元へと匂い袋を近づけたのであった。
  
 結局、一夜洞窟の中で過ごし、明るくなってから私はダシャと共に騎士団の所へと戻ろうとした。

「大丈夫。騎士を連れてここに必ず戻ってくるから」

「ああ」

 その時であった。

 一瞬空気が変わったかと思うと、緑の温かな風が吹き、私の体がふわりと浮いた。

「え?」

「っ!?」

 ダシャは私に慌てて手を伸ばすが、風に包まれてダシャから離れる。

 そして気が付けば、温かな体に抱きしめられていた。

「え? え? え!?」

 私は自分が誰かに抱きしめられているという事態に挙動不審になる。

「誰!? 何!?」

 ぎゅっと抱きしめられながら、私はゆっくりと顔を上げた。

 そこには苦しそうな表情を浮かべるヴィシアンドルの姿があった。
 
 最高神官長がどうしてここに!?

 今にも泣きだしそうな顔が、幼い頃の表情と重なる。

「無事で……良かった」

 その言葉に、私は目を丸くした。

 そして、一つの考えに行きつく。

「ヴィアン。あなた……知っていたの?」

 その呟きに、ヴィシアンドルは唇を噛むともう一度コレットの体をぎゅっと抱きしめた。それに私が動揺した時であった。

「聖女様を放せっ! この、変態!」

 ダシャは近くに落ちていた木の棒を投げた。

 ヴィシアンドルは私を抱きしめたままそれを軽やかによけると、ダシャの脇腹に蹴りを入れ、距離を取ると言った。

「誰だ小僧。はぁ……また、たぶらかしたんですか」

「え? ちょっとヴィアン。口が悪いし、たぶらかしたって何の事?」

 私にじとっとした視線をヴィシアンドルは送ってくる。

 そして大きくため息をついて言った。

「貴方は、これまでの僕の苦労を……どうして簡単にどぶに捨てるんだ」

「え? ちょっと待って、確認だけど、やっぱり、貴方、私の事気づいていたの!?」

「それだけ光を纏っているのに、気づかないわけがない。この僕が、わざわざ気づかないふりをしてまで守ろうとしてあげているのに、どうして……どうして他国の人間を癒そうとする!?」

 その表情は悲しげに歪んでおり、私は慌ててヴィシアンドルを抱きしめ返すと言った。

「あぁ、もうごめんなさい! 気づかなかったのよ! 貴方に守られているなんて。だって貴方が私のことに気付いているなんて思わなかったんだもの!」

 ぎゅっとされたことにヴィシアンドルは少し気をよくして、わざとらしくため息をついた。

「気づかなくて良かったんだ。貴方を守れれば良かった。けど、突然消えるなんて……やめてくれ。心臓に悪い。もう、貴方を守れないのは……嫌なんだ」

 ぎゅっと抱きしめられている手が、震えていることに私は気づくと、それを止めようと必死で抱きしめ返す。

 その様子を呆然と、地面に転がされたダシャが見つめた時であった。

 横を何かが駆け抜けたかと思うと、剣を手にしたローガン様がヴィシアンドルに切りかかった。

 ヴィシアンドルはそれを神力の壁にて意図も容易く防ぐと、優しげな微笑を浮かべて言った。

「あぁ、第二王子殿下、ご無事で何よりです」

「なんだ。私の婚約者を攫おうとする不届き者かと思えば、何故このような場所に最高神官長殿がいらっしゃるのか!?」

 二人の間にぴりりとした何かが走るのをコレットは呆然と見つめていたのだが、ふと、今の自分の状況に心臓がバクバクとし始める。

 これじゃあ、浮気現場を目撃されたみたいじゃない。

 私は慌ててヴィシアンドルから降りようとするのだが、ぎゅっと抱きしめられており、その手は緩まない。

「ヴィアン! 降ろして!」

 その声に、ローガン様の頬がぴくりと震え、笑顔を浮かべたまま私に言った。

「いつの間に、そんなに仲良くなったの?」

「へっ!? えっと、えーっと……」

 すると、ヴィシアンドルはコレットの頭に自分の顎を乗せると、にっこりと笑って言った。

「実の所、以前から仲良しでして」

「ちょっとヴィアン! わけわからないこと言わないで!? ろ、ローガン様、こ、これは」

「ほう。以前から。だが、今は私の婚約者なので、不用意に触れないでいただきたい」

「あぁ、そうですね。今は、婚約者でしたね」

「ちょっと、不吉な事を言わないでちょうだい! 私は絶対に婚約破棄何てされないわ!」

 場違いなことを言っているコレットの様子に、ヴィシアンドルとローガンは大きくため息をつくと、ローガンは剣を鞘へと戻すと私へと手を伸ばした。

「とにかく、今は、返してもらおうか?」

「はい。今は、返しておきましょう」

 そんな男同士のにらみ合いを、地面にしりもちをついた状態で見つめていたダシャは、小さな声で、呟いた。

「……ロリコン?」

「「違う」」

 二人の怒気をはらんだ声が響き、ダシャは小さな悲鳴を上げた。

 一度騎士団の所へと戻る予定であったが、ヴィシアンドルとローガン様が来たことで、ディを一緒に運ぶこととなった。
その移動中、私は延々と、二人からお小言をもらっていた。

「騎士団の元へと帰ってみれば、コレットが行方不明になった聞き、どれだけ私が心配したと思っているんだい?」

「そもそも、お二人が居なくなって、王宮は大騒動だったんですよ」

「もう少し警戒心を持って」

「それは同意します」

 次第に共闘して私を攻めにかかるものだから、私は騎士団に着くころにはげっそりとしていた。

 騎士団の所へと着くと同時に、私は騎士達に囲まれ、無事を喜ばれた。


「無事で良かった!」

「本当に、どこに行ったのかと」

 騎士団の皆も私のことを探していたようで、姿を見つけて大きく安堵の息をついている。

 その場にはシバ様の姿もあるが、少しばかり顔色が悪い。

 私が尋ねると、テントへと場所を移して話をすることとなった。

 ローガン様は森の異変と、襲撃について、そして黒く染まった地の砂を塗られた矢で射られたことなどを伝えた。

 傷自体はすぐに癒えたが、一度は昏睡するほどに陥った事を話すと、ダシャの顔色は悪くなった。

 話を聞き終えたあと、今度は私がダシャとディについて説明をした。

 話を聞き終えるとシバ様はすぐにダシャに平伏し、王族であり、そして次期国王になるであろうダシャに瞳を輝かせてみた。

「ご無事で何より。今後は我らがお守りするので、心配なく」

 ダシャは顔を歪ませ、首を横に振った。

「全て俺のせいなのに……守られるなんて」

 その言葉に、シバ様はにっこりと笑顔を向けるとはっきりとした口調で言った。

「王を守るは臣下の役目。どうか、顔を上げ、しっかりと前を向いていただきたい」

「けれど……」

「そもそも、殿下を殺そうなどとした不届き者達が悪いのだ。それはそうと、一つ質問があるのだがいいか?」

 シバ様の視線はゆっくりとヴィシアンドルへと向かう。

「説明がないが、この方は?」

 ローガン様は少し言いにくそうに、ため息をつくのを堪えながら答えた。

「我が国の、神官ヴィシアンドルだ。我々を探しに来てくれたらしい」

 ヴィシアンドルは頭を下げると、優しげな笑みを携えて言った。

「突然の訪問申し訳ございません。私は神力が強い為病にもかかりにくい。それに一人での移動ならば容易にこなします。ですので、

 二人が無事か確認をしに来たのです。」

「なるほど。俺はシバと言う。それで状況はどの程度把握を?」

「全て把握しております。精霊はとても噂好きですので」

 その言葉にシバ様は苦笑を浮かべる。

 精霊はたくさんの情報を持っている。

 しかし真実とは言い難いものも混ざっているのだ。

 だからこそ、真実を掴むためには精霊と信頼関係が出来ている必要がある。

 つまり、目の前にいる神官は相当力を持っているということ。

「なるほど。だが、神官殿がこの場にいることはありがたい。精霊は竜とも交流があると聞く。我らは知識を持たぬゆえ、竜の怒りを鎮める方法を知らん。何か、知っている事はないか?」

 ヴィシアンドルはその言葉に、ダシャへと視線を移すと、その手を優しくとって言った。

「ダシャ様と言いましたね?」

「え? あ、あぁ。なんだ。さっきと雰囲気が」

 ヴィシアンドルが微笑むと、女性よりも美しく儚げな印象を受ける。

 だが、先ほどのローガン様とのやり取りを見ていたダシャは騙されない。

 気合を入れてヴィシアンドルを見つめ返すと、ふっと、ほころぶような笑みを向けられ、ダシャの顔は微かに赤く染まる。

「怒りを鎮める方法は、恐らくは精霊とさほど変わらないと思います」

「精霊と?」

 ヴィシアンドルはゆっくりとうなずくと、ダシャの手を優しく撫でながら告げた。

「人とは違う存在は、好きな人を守りたいと願う。けれどそれは人の考えでは及ばない、予想外の事を引き起こします。今回の事も、
そうでしょう」

「確かに」

 素直に頷くダシャに、諭すように、ヴィシアンドルは言葉を続けた。

「ですから、はっきりとその方法は嫌だと伝え、そしてどうしてほしいのかを、はっきりと伝えればいいのです。ただし、それにはコツがあります」

「コツ?」

 ヴィシアンドルは楽しそうに笑い、ダシャの耳元へと口を寄せると小さな声で何かを言った。するとダシャの顔は困惑と、それと羞恥に染まり、視線を泳がせる。

「ほ、本当にか?」

 不安そうなダシャにヴィシアンドルは笑顔でうなずき、ダシャも諦めたようにうなずくと同意した。

「さぁでは、竜神様にダシャ様の気持ちを伝える準備をしましょう。シバ様、ダシャ様を湯あみさせ、美しい恰好をさせてあげてください。竜神様が安堵するように」

 そんなことが本当に役に立つのだろうかと疑問に思いながらも、今の所有力な情報は持っていない。

 故にシバ様はヴィシアンドルの言葉を取りあえずは信じてみようと席を立った。

「分かった。しばしお待ちいただきたい。殿下、着いて来ていただけますか」

「あぁ」

「私も手を貸しましょう」

「ありがたい」

 三人がその場から出て行き、残されたのは私とローガン様の二人。

 ローガン様は静かに横に座っていた私の体をひょいと抱き上げると、自分の膝の上へと無言で乗せた。

「あ……あのローガン様……この状況は」

 後ろからローガン様は私を抱きしめる。

 私は顔が真っ赤になっている自信がある。

 そんな私の肩口に顔を埋める。

「さっき、どこかの誰かさんは、神官殿をとても大切そうに抱きしめていたからね。うん。私も抱きしめておこうと思って」

 びくりと私の体が震わせる。

「婚約者には、あんなにも熱烈な抱擁をしたことがないと思うんだがね」

「い、いや、あれには理由が……」

「ふ~ん」

 ローガン様が私のつむじにちゅっとキスをする。

 私は恋愛の免疫がなさすぎて、顔がポッポとしてしまう。

 そして小動物のように体を震わせていると、ローガン様が笑った。

 私は、やられっぱなしでいられるかと気合を入れると、体の向きを反転させて、ローガン様をぎゅっと抱きしめた。

「え?」

 間の抜けた声がローガン様から聞こえた。

「コ……コレット?」

「わ、私の婚約者は……ローガン様なので!」

 しがみついてくるようなその抱擁に、ローガン様は降参というように両手を上げた。

「はぁ……私の婚約者が可愛くて困る。もう……早く大きくなって」

 呟かれた言葉に、私はびくりとする。

 大きくなってということは、今の私ではローガンには不釣り合いという事であろうか。

 そんなことを考え、私の瞳には涙が貯まり始める。

「い……今の私では……み、魅力がやはり足りない?」

「え?」

 ローガン様は涙声になる私に慌てて首を振る。

 それから私の涙を優しく指で拭った。

「違う違う。言っただろう? 可愛くて困るって」

 ローガン様は自分の言葉に苦笑を浮かべると言った。

「とにかく、魅力がないとかそんなことは思っていないよ。むしろ、魅力がありすぎて困るの」

「ほ、本当?」

 首を傾げてローガン様をじっと見つめる。

 すると、困ったと言うようにローガン様が言った。

「無自覚でやるのは、小悪魔過ぎると思う」

「小悪魔?」

 私が尋ねた時、テントの天幕をガバッと勢いよく開いてヴィシアンドルが戻ってきた。

「あぁ、お邪魔して申し訳ありません」

 ローガン様はその言葉に、はっきりと言い返した。

「そう思うなら出て行ってくれないか?」

「そうしたいのはやまやまなんですが、何せ、今は隣国の王子が竜の気持ちを変えられるかどうかの大事な時ですのでね。王子にも危機感を持っていただかなくてはいけません。それとお願いがありまして」

 ヴィシアンドルは私の脇腹をひょいと掴んで抱き上げると、にっこりとした笑顔で言った。

「コレット様には大事な役目を担っていただきたいのです」

「へ?」

 ヴィシアンドルは私を下へと下すと、目線を合わせるために自分もしゃがみ、そして真っ直ぐな真剣なまなざしで告げる。

「竜神というものは、精霊と同様に人の考えの及ばぬ生き物です。なので、貴方のような方がダシャ様の傍にいていただきたい。協力していただけますか?」

 その言葉にローガン様が口を開いた。

「何故コレットを?」

 ヴィシアンドルは、微笑を消し、ローガン様を見定めるような視線を向けると言った。

「理由がお分かりではないですか?」

 ローガン様はなるほどと苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべる。

「なるほど。聖女が見つからなかった理由は、貴方の仕業か」

「さてどうでしょうね」

 私は、ダシャ様の力になれるのであればとうなずいた。

「私で良ければ協力するよ」

 その言葉に、ローガン様はヴィシアンドルを睨みつけた。

「……今後の事まで考えての、行動だな?」

 ローガンの言葉に、ヴィシアンドルは微笑を浮かべ神官らしく頭を下げると答えた。

「もちろんでございます。私は、自らの役割を心得ております。」

「ならば、いい」

 ヴィシアンドルとローガン様は、共に頷き合うと私に視線を向けた。

 私の姿を見て、二人は何故か不覚ため息をついた。

 解せぬ。

 白い衣服に身を包み、ドラゴニア王国伝統の化粧を施されたダシャは、少女とも少年ともいえぬ雰囲気を醸し出しており、その美しさにシバ様も、騎士団の皆も息を飲んだ。

 ただし気になるのは、どこから白い衣装や化粧品が出て来たのかということと、ダシャの横に、同じように美しく化粧を施された私がいるということである。

 ダシャを引き立てる為か、私に施されているのは最小限ではあるが、それでも美しい。

 彼女が大きくなったならば、どれほどの男が魅了されるだろうか。

 まぁ実際には現在すでに大きいはずなのだが。

「ねぇ、この衣装どうしたの?」

「はい。必要になると思い持ってきました」

 ヴィシアンドルはそう言うとにこりと微笑み、私はこれ以上聞くなということかと頬を引きつらせる。

 そして緊張している様子のダシャへと視線を移した。

「大丈夫?」

「あ、あぁ……」

 不安に思うのも仕方がないと私はダシャの手をそっと握った。

「私も一緒だから。」

「うん……」

「事前に打ち合わせにした通りにすればきっと大丈夫だから」

「いや、それが一番心配なんだけど」

「えぇ? 大丈夫だよ?」

 顔を覗き込んでにこりと微笑むと、ダシャがわずかに頬を赤らめた。

 すると突然ローガン様に私は体をひょいと持ち上げられてしまう。

「え? ローガン様?」

「コレットは、私の婚約者なのだから、異性にあまり近づきすぎてはダメだよ」

「あ、はい。ごめんなさい」

「うん」

 ローガン様は私を一度抱きしめると、ゆっくりと降ろした。

「コレット、よろしく頼むね」

「はい」

 皆が私達から距離を取った。

 そしてヴィシアンドルは私達のすぐ後ろに控え、何かがあった時の為に動けるようにしている。

 騎士団の皆には簡単に説明はされているが、現状、皆が何が起こるのか分からずにいる。

 ヴィシアンドル曰く、精霊は愛しい子が名を呼び求めれば姿を現すと言う。

 竜神も同様なのではないかと言う推察によって、ダシャは呼吸を整えると、ゆっくりと天に手を伸ばしながら願い、乞う。
< 25 / 30 >

この作品をシェア

pagetop