ラブ・イン・ダーク
「……変なやつ」

「え?」

「俺見て、普通は泣くか逃げる」

「その、ちょっと怖いですけど……すごく怖いって感じじゃ、ないです」

言ってから、みうは慌てて口元を押さえた。

しまった。
失礼だったかもしれない。

けれど朔夜は怒るどころか、ほんの少しだけ口元をゆるめた。

それは一瞬だったのに、みうの胸を強く打った。

綺麗。
そんなふうに笑うんだ。

「家、どこ」

「この先の坂を上ったところです……」

「送る」

「えっ」

「この辺、最近ほかの連中がうろついてる。おまえみたいなの、ひとりで歩かせらんねぇ」

強引な言い方なのに、不思議と嫌じゃない。
むしろ、その不器用な優しさが胸にしみた。

「でも、ご迷惑じゃ……」

「迷惑なら最初から声かけてねぇよ」

そう言って、朔夜は自分のバイクではなく、歩幅をみうに合わせて歩き出した。

バイクじゃないんだ。
みうが驚いていると、朔夜は横目で見てくる。

「なんだよ」

「バイク、乗せるのかと思ってました」

「……おまえ、俺の後ろ乗れんの?」

低い声でそう聞かれて、みうは一気に顔が熱くなった。

「の、乗れません……!」

「だろ」

くすっと笑う声。
さっきより、少しだけやわらかい。

隣を歩くだけ。
それだけなのに、心臓がずっと落ち着かない。

怖いはずの人なのに。
噂では冷たくて、誰にも優しくしない人のはずなのに。

「白雪」

名前を呼ばれて、みうははっと顔を上げた。

「はいっ」

「そんなびびんな。食ったりしねぇよ」

「び、びびってません」

「顔真っ赤」

指摘されて、みうはますますうつむく。
すると朔夜は、少しだけ困ったように息をついた。

「……ほんと、危なっかしい」

その声は呆れているのに、どこまでも甘かった。

坂の上にある家の前まで着くと、朔夜は足を止めた。

「もう入れ」

「はい……あの、送ってくれてありがとうございました」

みうがぺこりと頭を下げると、朔夜はしばらく何も言わなかった。

静かな夜。
遠くで仲間たちのバイク音が鳴っている。

やがて朔夜が、ぽつりと言う。

「またこんな時間になるなら、連絡しろ」

「え……?」

「迎えに来る」

みうは目を丸くした。

「でも、連絡先……」

そう言いかけた瞬間、朔夜は小さく笑ってスマホを差し出した。

「だから今、交換するんだろ」

その一言だけで、胸がいっぱいになる。

月の光の下。
怖いはずの総長は、誰よりやさしい目でみうを見ていた。

この夜を境に。
白雪みうの世界は、きっと変わっていく。

甘くて、危なくて。
だけどどうしようもなく惹かれてしまう恋が、静かに始まった。
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