Bitter & Sweet
「もう、櫂ってば、こんな場所で盛ってくるなんて信じらんない!」
「骨抜きになってたくせによく言う」
「だって、あれは櫂が…」
「しょうがねえだろ、普通に我慢できなかったし」
「そんな、は、はっきりと言わないでよ」
「つーか、お前エロすぎ」
「なっ…」
「普段から生殺し喰らってる俺の気持ちも分かれ、バーカ、じゃあな」
フッと、僅かに口角を上げた珍しい微笑みと、くしゃっと頭頂部を撫でてくる手のひらの小さな感触だけを残して、今度こそ、櫂は先にひとりで登校していった。
しばらく続いたキスの波から解放されても、いまだに私の呼吸は乱れたまま。
最早、どちらのものかなんて判別できない、唾液で濡れた唇と、訳も分からず濡れた目元を同時に拭う。
春先だというのに、真夏のような体感だ。
熱く火照った頬を冷ますように、ぱたぱたと手のひらで顔を扇いでいれば、チャリンと、金属製の何かが落ちたような、微かな音が聞こえた。
足元へ視線を落として探してみれば、見つけたのは一般的に見かけるような、シンプルなシルバーキー。
けれど、鍵の先端部分に小さな白い紙切れが、ぐるぐると細かに捻って結んである。
鍵から外し広げたそれは、どうやらルーズリーフの切れ端みたいで、見慣れた、右斜め上がりの文字が視界に飛び込んでくる。
『バイト、早めに切り上げてくっから』
皺よれして読みにくいけれど、その、たったひとつの紙切れから、櫂の気持ちが充分に伝わってくる。
文章の最後に書いたらしい、『待ってて』の一言を消した筆の跡まで視界に入って、消さなくてもいいに、と少し不服に思いながらも、こうして、私の機嫌を戻そうと最後まで放置しない櫂の分かりづらい優しさが、やっぱり好きだな、と改めて深く感じてしまうくらいには好きだったりする。
日々、増えていく好きな気持ちに胸が高鳴って、小さな白い紙切れを大切に懐へしまうと、私は浮かれた気分で学校へ向かった。